オビ 特集

ƒvƒŠƒ“ƒg学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。

もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。

そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。

 

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実習生と企業の双方にとって、お互いを知るために良い機会

◎都立田無工業高等学校編/マツミハウジング株式会社

 

◆取材・文:坂東治朗

※都立田無工業高校の過去掲載記事はコチラ

 

 

DS_matsumi06_Matsui数多くの特許を取得し、住む人にとっての快適性が高い注文住宅を小平市を中心に提供しているマツミハウジング

社員が働きやすい環境づくりにも心がけており、その考えからデュアルシステムの実習生にも配慮している。

実習生受け入れ体制やデュアルシステムの意義について、松井祐三代表取締役社長に伺った。

 

 

4冊の本をセールスツールに住宅を受注

 

─御社の事業内容について教えてください。

 

当社の事業内容は、注文住宅の設計・施工、販売、メンテナンスです。

父が始めた会社で、創業45年。地元の小平市を中心に、新宿や青梅、埼玉県南部(朝霞市や新座市、入間市、蕨市など)、横浜市北部と、車で約1時間が施工している範囲です。

 

DS_matsumi0304(上)4冊の本が有力なセールスツール/(下)勉強会には数多くの参加者が集まる

当社が提供する家には特徴があります。まず、高い耐震性、防火性、断熱性が基本です。また空気の質にこだわっています。


創業者で現在は会長の父が海外などいろいろな所を視察し、最終的に特許を取り、当社独自の換気と空調のシステムを開発しました。そうした特徴を持つ「いい住み心地」の家を作っています。

 

家はすぐに売れるものではありませんので、健康維持・増進に役立つ「いい住み心地」の家を作るにはどうしたらいいかを説明した本を4冊出しています。

当社の考えに賛同していただいた全国各地の工務店さん33社と広告宣伝費を出し合い、新聞に広告を掲載し、その広告を見て興味を持たれた方が本を買い、さらに興味を持てば、当社での勉強会に参加されます。

勉強会はだいたい日曜日に開催していますが、年間200〜250組参加されます。

参加される方は、いろいろなハウスメーカーを回られていますし、今住んでいる家に不満を抱えているので、違いはすぐに感じていただけます。

 

─御社の社員数は?

 

25人おり、設計が6人、現場監督が7人、社員大工が4人、それ以外は役員や経理、総務です。当社には営業マンはいません。セールスツールは出版した本だけです。

その本を読まれて勉強会に参加されたお客様に、私や父である会長などが説明し、具体的な相談となったら設計士が対応します。そこがハウスメーカーと違うところ。

設計士が直接対応するのは珍しいですが、話が通じやすくていいとおっしゃるお客様も多いです。

耐震や防火、断熱は法律があるので、その部分に関しては協力関係のある工務店さんにお任せしています。換気と空調に関しては当社独自なので、図面のチェックから始まり施工を管理しています。

そうすることで当社が施工しなくても、本に書いてあるような快適な家が他の工務店でも施工できるという体制を取っています。

 

 

「実習生に一人で食事をさせない」ことの効用

 

─デュアルシステムの実習生を受け入れることになったきっかけは?

 

DS_matsumi01_taikan本社と体感ハウス

デュアルシステムの実習生を受け入れたのは一昨年からですが、田無工業高等学校との関係は長い歴史があります。

インターンシップを最初に受け入れたのは約20年前で、これまでに10数人を受け入れています。その結果、入社した人もいます。

田無工業高校の卒業生は現在、設計士1人、社員大工3人が在籍しています。そのほかに、社員大工が独立して親方になった人が2人います。

デュアルシステムの実習生としては、一昨年はインターンシップ、昨年は長期就業訓練で合計3回、同じ男子生徒を受け入れました。うれしいことに、彼は今年4月から入社することが決まっています。

今年入社するのは新卒4人(専門学校3、高校1)と中途採用2人です。新卒のうち2人が社員大工、1人が設計、田無工業高校の卒業生は現場監督になってもらう予定です。

 

─実習生はどんな体験をするのでしょうか?

 

適性がわからなかったので、現場管理や大工仕事、内勤で設計など、いろいろやってもらいました。インターンシップと長期就業訓練で合計約1年見ていますが、最初のころに比べてフレンドリーになりました。

当社のような会社にはなかなか新卒が来てくれませんし、中途採用もなかなか難しい。だからこそ、来てくれた人を大切にしなければならないと考えています。

 

─実習生を受け入れる体制はどうなっていますか?

 

社内でミーティングをして、実習生をかまってあげるようにしました。月曜日の午前は誰、午後は誰、火曜日は誰と、必ず担当者を決めました。

DS_matsumi02_sekou注文住宅の施工例

毎日の午前と午後のプログラムを作りました。設計の仕事なら、1日目は手描きで見取り図を作らせ、2日目はCADに入力し、3日目はパースに起こすという感じです。

監督の仕事なら、現場に行き、ヘルメットをかぶって足場に登って壁を張ったり、のこぎりで木を切ったりという大工の仕事を手伝わせたりしながら、工事の基礎・中間・仕上げを体験してもらいました。

社員には「実習生に一人で食事をさせないように」とお願いしました。会社がお金を出し、実習生と社員が一緒に食べるようにしました。

食べているときに、学校のことや仕事のことなど、いろいろと話を聞いてあげる。そういうふうにかまってあげると、実習生は心を開いてくれます。

こうした友だち感覚は、実習生と企業がお互いを知るために大事なことだと思います。

 

 

短所を理解し目をつぶり、長所を褒めて育てる

 

─採用に関してポリシーはありますか?

 

不特定多数を採用の対象にすることはせず、専門知識を学んだ人を対象としています。基本的に工業高校卒業もしくは専門学校卒業の人を採用しています。

具体的には、ここ数年の採用者を見ると、田無工業高校と専門学校の中央工学校の卒業生のみ。ほかの学校にも募集を出していますが、ほとんど応募がありません。

当社に限りませんが、社員は急に辞めてしまうものです。だから、計画的に採用しなければならない。けれども、こちらが望んでいるような素晴らしい人が必ず来るとは限らない。

採用した人の短所を理解して目をつぶり、長所を褒めて育てれば、3年もすると戦力になってくれるものです。

今年入社の田無工業高校の卒業生には、「お父さんが大工なので大工になったら」と助言しましたが、デュアルシステムでの実習を経験して、

「自分は監督として現場を経験した後、ゆくゆくは設計の仕事に移りたい。だから今は監督としてのスキルを学びたい」と、面接の時にビジョンを言っていました。

そのビジョンが実現できるように、彼が働きやすい環境を作り、サポートしたいと考えています。

 

─デュアルシステムをどう捉えていますか?

 

とても良いと思います。1日ぐらいのインターンシップではまったくわかりませんが、基本的に受け入れるのは1人ですから、ある程度の長い期間受け入れるデュアルシステムなら、実習生も企業も相手のことがよくわかります。

当然、人間関係もよくなってきますし、仕事の内容もよくわかってきますので、お互いにとって非常に良いシステムと思います。

 

 

 

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◉プロフィール

松井祐三(まつい・ゆうぞう)氏

1969年東京都小平市出身。東京都立武蔵高等学校卒業。設計事務所勤務を経て、マツミハウジングに入社。2008年、代表取締役社長に就任。1級建築士、1級施工管理士、宅地建物取引主任者、耐震診断士、CASBEE評価員などの資格を持つ。趣味はサーフィン、マラソン、スキー、スノーボード。

 

マツミハウジング株式会社

〒187-0011 東京都小平市鈴木町2-221-3

TEL 042-467-4123

http://www.matsumi.com/

 

 

 

 

◆2017年1月号の記事より◆

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