オビ 特集

ƒvƒŠƒ“ƒg学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。

もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。

そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。

 

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仕事や社風を実際に体感してもらうことで入社につなげる

◎都立田無工業高等学校編/株式会社鈴木組

 

◆取材・文:佐藤さとる

※都立田無工業高校の過去掲載記事はコチラ

 

 

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とびを中心とした老舗の建設会社「鈴木組」。大手ゼネコンの大林組との協力会社としてスカイツリーや虎ノ門ヒルズ(写真右)など高い技術力で数多くの世紀のとび工事・土工事に関わってきた。

質の高い職業教育でも知られ、自社に「鈴木職業訓練校」を持つ。

傍から見れば人材雇用、育成にはとくに問題ないとも思えるが、「我々の職業はこのままではいけないのではないかと悩んでいた」と同社代表取締役社長鈴木央(なかば)氏は語る。

鈴木氏と鈴木職業訓練校の副校長を務める同社専務取締役高野伸一郎氏に伺った。

 

 

徳川家の土木工事にも関わった、江戸時代からの老舗

 

―御社の特長を聞かせてください。

 

DS_suzukigumi03_suzuki「私たちの仕事は終わったら解体され、中に隠れたりと現場に残りにくいのが、PRしにくいところ。業界のためにも公的な専門の訓練所などがもっとあればいいと思っています」(鈴木氏)

鈴木:当社は徳川家の土木工事にも関わった、江戸時代から続くとびを中心とした歴史ある会社。鉄骨を立てたり、足場を組んだり、コンクリートを打ったりという、とび工事、土工事を手がけています。

ほかにも近年は物流工事、養生・クリーニング工事、 斫(はつ)り・杭頭処理・内外装解体工事など幅広く手がけています。

実績では大手ゼネコンの大林組さんの協力会社となっており、スカイツリーや虎ノ門ヒルズなどの大きなビル関係のほか、ドバイの現場など海外にも行くようになりました。

平成6年からは東京都の認定を受けた企業内職業訓練校、「鈴木職業訓練校」を設立して、社員の技術向上、資格修得などを図っています。

また当社は業界としては一般的な日給月給制ではなく、月給制を採用しています。長く勤めてもらって力を発揮してもらいたいと考えるからです。福利厚生の充実にも早くから取り組んでいます。

 

―自社で職業訓練校を設立したのですか?

 

鈴木:はい。昔はとび職人になるには徒弟制度で、親方について学んでいくのが一般的でしたが、時代が変わりました。

先代の社長が、「やはりきちんと教育していかないといけない」と考え、大林組さんなどの協力も得て実現させたのです。正直経営が苦しい時はやめようかと考えたこともありましたが、頑張って続けてきました。

DS_suzukigumi04_takano「技能として職人を育てるのであれば、徒弟制度がいい。しかし総合的に知識や安全面までしっかり学ぶとすれば、いまの時代はしっかりした教育が必要です」(高野氏)

当社では、新人は入社後1年間は、社会人としてのマナーも含め座学と実技を合計1600時間にわたってここで学びます。

1年間学ぶと技能士補という資格が取れるので、それを取って現場に出ていく。その間は給料も出ます。

 

高野:訓練校をつくった当時の目的はとびの人材育成でしたが、次第に現場の職長育成に変わっていきました。

いまは国土交通省や厚生労働省の推進するキャリアパスに準じて30歳くらいまでに、すべての資格を取らせたいと考えています。

なかでも基幹技能士という資格を取ることが1つの目標です。現場の職長経験が7年以上あってこの資格を取得していると、元請け企業の対応が違ってきます。

大林組の場合、「スーパー職長」になって権限がぐんと大きくなります。年齢や経験によりますが、年間だいたい50万円から100万円が給料に加えて補助してもらえるようになります。

 

 

100校めぐって5、6人採用がやっと

 

―それだけ立派な教育システムがあれば、デュアルシステムは必要ないのでは?

 

高野:そうでもないのです。やはり建設業というといまだに色眼鏡で見られるところがあります。

そういったこともあって先代社長は、教育的なことから始めれば、送り出す先生方や親御さんも送り出しやすいだろうと考えて訓練校をつくったようです。

ただ、まだまだ業界のことが知られていないと感じています。

 

鈴木:採用のために、毎年東北から首都圏を中心に高校さんを100校近く回っていますが、それでも5、6人がやっと。1人しか採れないという時もあります。

さらに最近は少子化の影響もあって、親元から出したがらないし、入社してからも、途中で辞める。

本人が親御さんに相談すると、昔だったら「もっと頑張ってみたら」と言っていたのですが、いまは「帰ってくれば」と親御さんが言います。

5年続けば、結構面白さが分かって残ってくれるのですが、そこまでが続かないのです。デュアルシステムに登録したのはそういった背景があります。

 

 

体験して納得してもらうことが大きい。親御さんも安心する

 

―デュアルシステムは現場での体験ができることが大きいと?

 

鈴木:生徒さんが現場で長期体験ができるところがいいと思います。

来ていただいて、実際に見て体験して、納得してもらって、その上で就職することになるから、辞めない。本人だけでなく親御さんも納得しやすいと思います。

長く続くことになるから、後輩も入りやすい。そういう好循環が生まれやすい。

DS_suzukigumi02_jyugyo企業内職業訓練校「鈴木職業訓練校」での授業。同社に入社した新人は、座学を600時間、実習を1000時間、1年間にわたって受ける。デュアルシステムの実習生もここで座学と実習を受ける。

それに当社は職業訓練校があるのでデュアルシステムを活かしやすいと思っています。職業訓練校には若い人の人材育成に加え、デュアルシステムの受け皿という役割があります。

当社に来ていただく生徒さんはまず、職業訓練校に入っていただきます。

私たちの現場は元請けのゼネコンさんの建設現場なので、許可が要りますし、そこで危険な作業をさせるわけにはいかない。現場には行きますが基本は見学だけです。

自社のなかで責任を持って行えるとなると、自社の職業訓練校で体験してもらうことになります。

すでに訓練校のカリキュラムがあるので、そこを利用して足場を組んだり、鉄骨を立てたりということを行えるし、高校ではできない座学もできます。

また指導する側も慣れていますので、デュアルシステムとマッチしやすいと思います。

 

―デュアルシステムの成果はどうでしょうか?

 

鈴木:導入して4年目になりますが、田無工業の生徒さんには4年連続で来ていただいています。そのうちの1人は今年入社が決まっています。

2年生の時に、最初3日から5日くらいで来て、3年生でまた5日ほどで2回くらい来て、さらに春休みに来て夏休みに来ています。

最後は面接をして入っていただくことになりました。本人も納得して入っていただいてますから、期待が持てます。

当社ではほかにも都内や近県の工業高校さんから生徒さんに来ていただいています。多い高校さんだと1年に4人ほど来る場合があります。

また当社は普通高校や農業高校からの採用も多く、こうした学校にも積極的にアプローチしています。

 

―デュアルシステムで生徒さんを受け入れる際に気をつけていることはありますか?

 

鈴木:生徒さんは授業として来ている。そこを意識することでしょうか。

たとえ自分の会社、業界に入らないとしても、授業として何かを見つけてもらいたい。そのためには良いところも悪いところもありのまま、見てもらうようにしています。

辛いこともあるけど、こういうやりがいもあると。最終的に本人が幸せになることが大事。そういう人を社内に増やしていきたい。

そのための自分の将来像、キャリアパスが描けるように意識しています。

30代そこそこで家庭を持ってお子さんもいて家を建てた若手社員がいます。「家買いました」って言われた時はびっくりしましたが、嬉しかったですね。こちらも頑張ろうという気になります。

 

 

 

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◉プロフィール

鈴木央(すずき・なかば)氏…1962年生まれ。化学製品製造・商社などを経て1993年より同社代表取締役社長。趣味はスポーツ観戦。

高野伸一郎(たかの・しんいちろう)氏…1951年生まれ。鈴木組協力会社社長を経て2009年より同社専務取締役。鈴木職業訓練校副校長。趣味はスポーツ観戦でとくに相撲好き。

 

【株式会社鈴木組】

創業:江戸時代(今村組)会社設立1956年。

本社:〒113-0022 東京都文京区千駄木3-43-3 ATK千駄木ビル4階

TEL:03-3822-1785

社員数:直庸89名 グループ会社570名(30社)

http://www.suzujts.co.jp/ 

 

 

 

 

◆2017年1月号の記事より◆

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