オビ 特集

ƒvƒŠƒ“ƒg学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。

もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。

そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。

 

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ものづくり日本の原点は高い開発力。次世代の開発の担い手を育てる

◎都立田無工業高等学校編/有限会社瀬川工業所

 

◆取材・文:佐藤さとる

※都立田無工業高校の過去掲載記事はコチラ

 

 

DS_takachiho_hotta東京都八王子市に本社を置く高千穂精機株式会社は、計測機器、分析機器などの〝1点もの〟を手がける機械製造業。

取引先は全国の大学や官公庁、民間企業の研究機関など4000団体にも及ぶ。

 

「日本のものづくりの原点は、大量生産技術ではなく、どこにもない装置や機器を生み出す開発力にある」と語る社長の堀田滋氏

 

「若いうちから頭を使って開発することを体験していけば、発想力豊かなエンジニアが生まれる」とデュアルシステムに期待を寄せる。

 

ユニークな商品開発を続ける同社のものづくりの思想とデュアルシステムのあり方について伺った。

 

 

「今日すべき自分の仕事を早めに終わらせたら、あとは何をしてもいい」というのが同社の方針。

「新しい商品のアイデアを考えてもよし、おしゃれな店でショッピングをしてもいい。そういうほうが効率がいいのです」と話す。

 

 

研究や試作に使う世の中にない装置を生み出す

─社会に対して「ほんの少しお役に立ちたい」という会社理念がユニークです。

 

当社は製造会社ですが、モノをたくさんつくって販売しているのではなく、そういったモノをたくさんつくっている方々をサポートする、研究や開発に必要な装置を開発しています。

新商品開発には試作をしなければなりません。そのためのデータ取りや、測定するというステップを必ず踏みます。

そういったお客様のサポートをして、世の中の少しでも役に立ちたいという思いで日々開発に取り組んでいます。

 

当社は工場がありません。

特注的なものが多いので会社で組み立てることもありますが、基本的に「こんなことができないか」というお客様の要望を受けて、図面を描いて、構造設計が終わった段階で外注してつくってもらいます。

 

予算が決まっていることが多いので、知恵を絞り出して、世の中にないものをつくって、利益を出すかが勝負です。

 

─デュアルシステムのきっかけは?

 

取り引きのある多摩信用金庫さん主催の「多摩ブルー・グリーン賞」でたまたま2年連続で受賞したところ、

東京都中小企業支援センターの方が来られて、デュアルシステムのインターンシップを紹介されたのがきっかけです。

当社はもともと検査装置の商社時代が長く、東京都の方がメーカーだとは知らなかったようなのです。

大量生産するための装置でもないので、世の中にあまり知られていないというのもあります。

 

工業高校の若い方たちに、「こんな仕事もあるのだ」と就職の選択肢の1つとなればという思いがありました。

もっと大きなことを言わせていただくと、日本の開発力の底上げに貢献したいと思ったのです。

 

日本にはロットで製品をつくる企業はたくさんありますが、本当に頭を使って開発している企業はまだまだ少ない。

私はものづくりの原点は開発にあると思っています。

その開発の力を若いうちから育て、日本を引っ張っていくような人材がこの体験から1人でも生まれたら嬉しいと思って手を挙げました。

 

それと職業高校に対する固定観念も変えたかった。

私は工業高校の電気科で学んで、それでは不十分だと大学で機械工学を学んだ経験がありますが、日本ではどうも工業高校卒は手で作業をする仕事、

大学卒が頭脳で仕事をするという妙な分け方をしています。それが好きじゃない。

潜在能力は誰にでもあると考えています。工業高校で専門知識を取り入れれば、もっと豊かな発想、本当の開発のプロが生まれてくる。

そのきっかけをつくっていきたい。

 

 

国から要望があった機械を自分で図面を引いて、加工して組み立てる

─実際、受け入れてみてどうでしたか?

 

当社に来た生徒は男子1人でした。もっと受け入れたいと思っていましたが、何人か来るとゴチャゴチャになるということでした。

 

最初は1年生の時にインターンシップで2日間ほど。

おとなしい子で「やっていけるかな?」と心配しましたが、ちょうど農水省から依頼された蕎麦の自動製粉機の組み立てをやってもらったら「また来たい」と言ってくれました。

面白かったんでしょうね。2年生では秋と春にやってきて、3日くらいずついました。3年生もそのくらいだったかと思います。

 

製粉機は農水省からの「蕎麦職人の腕に左右されない蕎麦の産地ごとの味の違いが分かる装置をつくってほしい」という依頼で始まったもので、製粉から捏ね機、製麺機の3つを制作します。

2年生時にはその捏ね機をつくり、3年生では製麺機をつくってもらいました。最後はそこでできた蕎麦を食べてもらいました。

製粉から製麺まで自動でこなす、世の中にないものを自分の手でつくって、最後はそのつくった機械で蕎麦を食べたわけです。満足そうでしたね。

 

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先輩の指導を受けながら蕎麦の製粉機、製麺機に挑む実習生

 

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打ち上がった蕎麦を先輩と一緒に食する実習生(左手前)

 

 

 

 

2年生の時には、ほかに検査機のチャンバーに使う容器を、自分で図面を引いて加工して組み立てまでやってもらいました。

基本的にやりたいことがあったらやらせていますので。

 

3年生の頃は、もう終始ニコニコしていましたね。黙って仕事を始めるし、自分でやりたいことができると実感したのだと思います。

最初は「続くかな、大丈夫かな」と思ったのですが、どんどん積極的になって、3年の時に親に「ここに就職したい」と言ってきました。

親御さんも彼の熱意を理解したようで、この4月からは入社する運びとなっています。

 

─職場の反応はいかがでしたか?

 

コミュニケーションが活発化して会社全体に思いやりのようなものが出てきました。

当社では自分のやっていることを教えることはしません。皆プロなので。でもそのプライドが邪魔をして聞きたいことがあっても聞けない雰囲気がありました。

でも実習生は素直に何でも聞いてくる。それが刺激となって職場全体でも「これどうしたらいい?」って簡単に聞けるようになりました。

 

そもそも本来ものづくりは、自分の知恵プラス他人の知恵によって何倍にも広がるはずなんです。

「ここが分からないので」と聞いてつくっていけば、何十倍もいいものができるはずなんです。

 

 

10年20年と取り続けるデータのために、成長より存続が大事

何でも聞ける環境は大事です。当社では社員に「これをしなさい」とは言いません。実習生に対しても同じ。

だから最初は人より時間がかかってもいい。失敗しても構いません。当社は開発の会社ですから、失敗を怖れていては何もできない。

それこそ50個つくって、全部失敗というのもある。何百万円という損失を出すこともあります。

 

でも失敗することが経験になっていく。だから自分で考えて、苦しむ。そして最後に聞く。

でも聞くと言っても誰に聞いたらいいのかを自分で判断しなければ分からないわけです。それでも失敗する。

 

その時、大事なことはしっかり責任をとること。

責任をもち、周囲とコミュニケーションが取れて信頼関係があれば、やり直して新しい装置を生みだすことができるのです。

 

会社としては別に大きく儲けなくていい。1年間で帳尻が合えばいいと思っています。それより10年、20年確実に存在することが大事だと考えています。

私どもの装置は研究で使われることが多い。研究ではそのバックデータが10年20年と長い。

そのデータを取る装置のメーカーがなくなったら、機械やデータの整合性がとれなくなる。だから成長より長く存続することが大事なのです。

 

─人材採用には気を使っていますね。

 

当社には、工業系の大学卒や工業高校卒もいますが、文系も多いんです。体育大学卒や美術大学卒もいます。

理系というのはどうしても発想の視野が狭くなる。でも文系は専門技術の知識は少ないですが、広く浅く世の中を見ることができる。

目が広いからいろんなことが商売のヒントになるわけです。こんなのができたらいいなとか、発想が豊か。

そういう発想力を手先が器用で、ものづくりに関心のある若い工業高校生が身に付けることができれば、すごく伸びていくと思います。

 

逆に言われたとおりにやる子は伸びない。「このネジを締めなさい」っていうとふつうはそれだけを一所懸命にやる。ひたらすらネジを締めている。

でもそういう子は全体のこと、回りが見えないから、事故やケガを起こしやすいんです。

 

当社では、ケガをする社員がいません。それは自分で何をしなければならないと考えて始めるから。

それが分かれば人に迷惑をかけないようにスペースをつくって始めるようになります。

 

─デュアルシステムについて思うことはありますか。

 

もっと私たちを学校に呼んでほしいと思います。

たとえば当社の変わった装置を持っていくだけでも教室の10%の生徒に関心をもってもらえる。チャンスが増える。世界が広がる。

それとやり方、考え方次第でいろんなものが生まれるということを教えていただきたいと思います。

とくに工業高校は大事。ヨーロッパやアメリカの製品が機能やデザインで日本の上を行っているのは、そこにあると思っています。

デュアルシステムでそういう面白さをどんどん体験させていきたいと思っています。

 

 

DS_takachiho_car

本社に展示されているスバルのクラシックカーは、EV仕様に改造されている

 

 

 

オビ 特集

【高千穂精機株式会社】

本社:〒192-0906東京都八王子市北野町507-8

 

〈事業所所在地〉

山形支店:〒990-0834山形県山形市清住町2-4-13

仙台営業所:〒984-0826宮城県仙台市若林区若林2-2-4 大槻ビル1F

郡山営業所:〒963-8875福島県郡山市池ノ台20-25 室井ビル

筑波営業所:〒305-0821茨城県つくば市春日4-18-11

大阪営業所:〒530-0053大阪府大阪市北区末広町3-21 扇町センタービル

 

従業員:55名/設立年:1959年12月

http://tsk-mt.com/

 

 

 

◆2017年3月号の記事より◆

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