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経験を求める大学生とのコラボレートで、企業の未来は変わる! 後編

やまとなでしこプロジェクト×葛西啓之(和太鼓グループ彩)

◆取材:加藤俊 /文:野村美穂


やまとなでしこプロジェクト (2)(写真左より)
・慶應義塾大学総合政策学部1年 酒井幾代(ご本人の希望により顔写真掲載NG)
・武蔵野音楽大学音楽学部4年 山田彩加
・法政大学法律学部4年 池谷その子
・慶應義塾大学環境情報学部3年 澤茂奈実
やまとなでしこプロジェクトHP

和太鼓彩 葛西啓之 (2)和太鼓グループ彩(プロ和太鼓奏者) 葛西啓之…2009年3月東京大学文学部卒業後、株式会社電通入社。2013年3月退社後、同年4月にプロ和太鼓グループ彩-sai-として本格的に和太鼓奏者としての活動を開始する。2014年3月末には、フジテレビ「笑っていいとも!」の木曜最終回にゲスト出演し、32年間続いた同番組の客演ラストを飾り、同年5月からは、マクドナルドの新商品CM「とんかつマックバーガー」にも出演。6月には、アジア最大のリゾートホテル、ヴェネチアン・マカオリゾートホテルにて鮮烈な海外デビューを飾った。
和太鼓グループ彩HP

「日本の伝統産業を盛り上げる」活動をしている女子大生団体「やまとなでしこプロジェクト」。彼女たちと、電通時代ともにプロジェクトを遂行した経験を持つ葛西啓之氏を交えて、今号では、いよいよ現役女子大生たちの就職感に迫っていく。前編

果たして、中小企業は就職先として選択肢に入るのか?

加藤:皆さんはやまとなでしこプロジェクトの活動を通じ、他の大学生たちよりも中小企業や職人さんと身近に接していると思います。中小企業を見てきていますよね。中には魅力的な企業もあったかと思います。ただ皆さんは有名大学の学生で、普通なら大企業への就職が選択肢に入ると思います。ズバリ中小企業への就職は考えていますか?

 

池谷:中小企業も検討したのですが、結局は大手の企業を選びました。女性というだけでもかなり限られると思いますし。

 

山田:私も大企業に就職が決まっています。音楽大学出身ですが、一般企業を選びました。やはり、リクナビなどの情報や周りの学生から受けた影響は少なくないと思います。友達同士で話しているときに「どこそれ?」と言われない名の通った企業に行きたいという思いはあたり前のようにありましたし。自分の行きたい企業に行けたので良かったのですが、今思えば、就職活動中独特の空気感に流された面が多少はありました。

初めての就職活動であり知識のない中で、リクナビなどを通して入ってくる情報の影響力は凄く大きかった。中小企業はホームページがない企業やホームページの情報が十分でない企業が多く、ハローワークに行っても情報が足りなくて。どうやって知れば良いのかわからないし、簡単に調べられる世の中だから調べて出てこなければ諦めてしまいます。「知らないから選べなかった」ですね。

 

加藤:でも皆さんは他の学生よりは“知っています”よね。中小企業が人材集めに苦労する最大の理由は、存在を知られていないからです。中には魅力的な企業も結構あるのに。「ああ、ここでなら働いてみたいな」と思う機会はありましたか?

 

山田:あまりなかったです。というより、就職先という観点で企業を見てきませんでしたし、企業側も私達を人材候補と捉えて接していませんので。

 

加藤:なるほど。良い意味で強かですね。ボランティアなどの課外活動に熱心な学生の意識の何処かには、それが就職活動に役立つという実利を見越している点があると思います。その文脈上で考えると、「伝統工芸をPRする」活動は、訴求効果が非常に高いですものね。

 

和太鼓彩 葛西啓之 (1)

葛西:大企業から中小企業にはいけるけれど、よほど能力のある一握りの人を除くとその逆は無理だからね。新卒では大企業を選んで、中小企業に行くかどうかを判断するのを先延ばしにしても良いんじゃないかな。学生のときに骨をうずめる覚悟のできる会社や仕事に出会うことなんてほぼ無理ですし。働いていろいろ見えてきてから選べば良いのではないでしょうか。

 

加藤:当然それで良いと思います。せっかく大企業に行ける立ち位置にいるのですし。それに皆さんの親も、親として子供を立派に育て上げたと見栄をはれる名の通った企業に入社してほしいと考えているでしょうし、「この先どうなるかわからない」という印象を抱かれがちな中小企業よりも大企業を喜ぶでしょうからね。中小企業には提供できない充実した福利厚生もありますし。

ただ、伝統工芸など承継が課題になっている業種に、優秀な若手人材を集める難しさを感じます。皆さんのように、多少なりとも知っている人が就職の選択肢に入れない。この価値観が変わらないと、伝統工芸の分野で言えば途絶える文化が出てくるでしょうし、これは企業側が皆さんに対してもっとPRしていいと思うのだけれども。

 

やまとなでしこプロジェクト 写真

:私は今3年なので来年が就職活動ですが、東京で働くことはあまり考えていません。正直、SFCに入学した時は自分がどんな人生を歩みたいのか、他の学生と比べてはっきりとした「ビジョン」が持てませんでした。しかし、やまとなでしこプロジェクトの活動を通じて、今は地元(岐阜)に帰ってローカルメディアで情報発信するなど、地域に貢献できる仕事に就きたいというビジョンを描くようになりました。人であふれ、代わりの人材が何人でもいる東京ではなく、人手不足で悩む地方のメディアで「やりがい」を実感しながら働きたいなと。

親にはもちろんお世話になっていますが、就職するのは親ではなく私なので「本当に自分が好きな仕事でやりがいがなければ続けられない」と思います。魅力的な福利厚生よりも、やりがいが私には重要です。

 

葛西:やりがいという快感って重要だよね。インターンシップでもアルバイトでも構わないから、学生にやりがいや達成感という快感を味わってもらえば「選んでもらえる会社」になれるのかもしれない。

 

やりがいや達成感を植え付けるインターンシップが、学生の就職活動を変える?

ミーティングメンバー打ち合わせの様子。
ミーティング2メンバー打ち合わせの様子2。
川越散策 蔵造りの町並みなど江戸情緒が残る小江戸川越を散策。
茶道体験茶道を体験した際の様子。

加藤:皆さんはインターンシップに参加されましたか?

 

池谷:行きました。けれども、2週間という期間だったので「あぁ、こんなところなんだ」とざっくり掴めたところで終了してしまいました。この期間で得たものは自分の財産になったのですが、もう少し長い期間だと、また見えてくるものが違うのかもしれません。

 

葛西:日本のインターンシップは期間が短いですよね。アルバイトとかも3か月目くらいでようやく楽しさに気づくことができるもので、数週間という期間ではなかなか伝わらないかと。

 

酒井:期間の点は本当に物足りないです。海外のインターンシップは3か月や半年など日本よりも長期間です。給与を頂きながらインターンシップで働いてその給与を学費に充てるとか、インターンシップのために休学するとか。日本にはないですね。SFCの学生は短いインターンシップへたくさん積極的に出かけているので、課外活動での欠席理由の中でも、「インターンシップで」休む学生も少なくないです。

 

:私も参加しました。私も短い期間でしたが、進路を最終的に決める気づきを得られました。地元のシャッター商店街をどうやって活性化できるかという課題が提示されたときに、思い浮かぶアイディアは幾らもあったのですが、どれも「そんなに簡単じゃないよね」と思うものばかりで何も言えなくて…。翌年は地元メディアへインターンシップに行って、コンテンツを作らせて頂いたのです。

その体験から「メディアとして影響力を持った発信をすることで活性化の一端を担えるのではないか」と思ったことから、地元メディアへの就職を考えるようになりました。期間よりも「何を体験できるか」が大事だと私は思います。

 

酒井企業側が、お金のかからないアルバイト代わりという感覚でインターンシップを受け入れているか、きちんと自社の魅力を伝えようとして受け入れているかという「受け入れ側の意識」を学生は肌で感じています。良い評判も悪い評判もSNSで学生の間で拡散してしまう時代なので、きちんと自社の魅力を伝えようと思い、インターンシップを受け入れることが企業にとっても有益だと思います。

 

「経験」を求める学生とコラボレートして欲しい

加藤:最後に、中小企業へメッセージがあればお聞かせください。

 

:若い人の意見を積極的に取り入れようとされる経営者の方々と直接お話しする中で、「伝統は大事だけれどそれにとらわれすぎてはいけない。柔軟な思考が大事だ」という一言が強く印象に残っています。私自身も、「若い人たちの独創的なアイディアと伝統が組み合わされば、日本文化はもっと面白いものになる」と考えるようになりました。

気軽に大学やなでしこプロジェクトのような学生団体へアプローチして、大学生を企業活動へ積極的に巻き込んでほしいです。大学生は報酬よりも「経験や体験」を欲しがっていますが、企業への働きかけ方法が分からないのでお声掛けを頂くことを待っています。

 

酒井:全国に美術大学があるのですが、例えば金沢美術工芸大学では「大学生が作った○○」というキャッチコピーがブランドとなって、大学生の独自の感性で色づけしたプロダクトが人気を集めています。実際に、眼鏡の産地・福井県鯖江市の企業とコラボした眼鏡フレームや金沢市企業局とコラボし加賀手まりをデザイン化したペットボトル「金沢の水」などがあり、2012年には企業の連携により誕生した商品を紹介する企画展「社会に貢献する金沢美大のデザイン力」などが開かれました。もともと同大学出身者が携わる製品のデザインには定評があり、トヨタ車「プリウス」の車体をはじめ、資生堂「TSUBAKI」、サントリー「BOSS」など多くのものが生み出されています。

ですので、同大に限らず、美術大学は優れた感性をもった人間が多くいますので、企業の皆様にも、「学生」だからとは思わずに「大学生ブランド」をぜひ活用してほしいですね。

 

加藤:幾らくらいお支払いしたら良いですかね?

 

酒井:経験させて頂けるだけで嬉しいので、名前をクレジットしてもらえるだけでみんな喜ぶと思います。全部終わった時に美味しいご飯を食べさせて頂けるとなお嬉しいですね。

 

加藤:企業側にしてみると、助かりますね(笑) 今日はありがとうございました。

 

【後記】

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10人中7人が中小企業で働く世の中であるにもかかわらず、学生が在学中に中小企業の存在を知る機会は少ない。知らないからこそ、可視化しやすい福利厚生や給料の多寡、認知度などを企業選定の指標として、過度に重視するのだと思っている。

大企業は福利厚生や給料の安定は確かにある。ただ、そういった企業では、一個人としての裁量はかえって失われるかもしれない。決められた枠組みのラインに組み込まれることで、本来自分のやりたいことができないキャリアを送るかもしれない。なぜこんな話を持ち出すのか。

実は、取材をしていると対象の企業を深く知ることになるので、「ここで働けたら楽しそう」と思える企業がそれなりに見つかるのだ。自分が学生の頃、そういった企業の存在を知ることができたならば、就職活動の段階で選択肢に入れることができたのに。そう思える中小企業が結構な頻度で見つかるのだ。それだけに、在学中から中小企業や伝統工芸などと関わりを持つ学生たちの就職感に興味があった。

課外活動をする学生には学生なりの思惑がある。その意図を飲み込んだ上で、学生の心に刺さるアピールを企業側がもう少し心がけていけば、優秀な人材が大企業に根こそぎ獲られて飼い殺しにされる現在の構造を変えることができるかもしれない。大学生とのコラボレートや中長期インターンシップなどにより「やりがいという快感」を得てもらうことで、就職や転職の際に中小企業を選んでもらうことは十分可能である。新規プロダクトを生み出すためのアイデアを得るためにも、後継者問題をクリアするためにも大学生と積極的に関わって行くことが企業の未来を明るくすると期待する。(加藤俊)

 

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2014年12月号の記事より
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