本誌でも何度か紹介したM&Aマッチングサイト「TRANBI(トランビ)」では様々な事業が案件に上げられているが、今回は中でも異例な「ゆるキャラ」事業を承継した方に話を伺った。勿論、「ゆるキャラ」にも同席してもらって。

 

鎌倉市の非公認キャラクター

 

「拙者の名はおちむん。正和三(1313)年の生まれでござる。大好きな故郷鎌倉で暮らしていたのでござるが、元弘三(1333)年に新田義貞どのが鎌倉に攻め入った時に、怖くて逃げていて、気づいたらここにいたのでござる」

 

 

と身振り手振りを交えて話すのは、鎌倉市の非公認キャラクターおちむん。月代を剃り落としたざんばら髪に、困ったようなへの字の眉。体にまとった鎧には「鎌」の字の紋。

彼は2013年ごろから鎌倉市の様々なイベントに参加しており、市内ではちょっとした人気者だ。

 

「この時代に来たばかりの時は見たことの無いものばかりで戸惑っておったが、今はだいぶ慣れたでござる。夏になると由比ガ浜は裸と見まごうばかりの格好の若者で溢れかえっているのにも、やっと。拙者の生まれたころは今とは全く異なり、浜は実に静かなものでござったが……」

 

そう言って昔話を始めるおちむんの隣りには、おちむんの身元を引き受けているプロデューサーT氏。「ピコ太郎」における古坂大魔王のような立場、としたらご理解いただけるだろうか。

 

「おちむんは鎌倉時代から現代にタイムスリップしてきました。それから『ゆるキャラ』として活動を始めたんです」

 

おちむんが活動を始めた2013年、世間は「ゆるキャラ」ブームに沸いていた。2010年から始まったゆるキャラグランプリはひこにゃん(彦根市マスコットキャラクター)、くまモン(熊本県、同)などの有名キャラクターを生み出した。最盛期には全国から1700ものキャラクターが参加するほどの大規模なものになった(2014年、第五回)。また、船橋市の非公認キャラクターのふなっしーなど、テレビにも登場し大活躍していたのは記憶に新しい。

 

そんな中で活動を開始したおちむんも、新聞の地方版に写真入りで掲載されるなど、観光地鎌倉で名の知られた存在になっていた。

 

「拙者は武芸が苦手。よく母上にも、それでは立派な武士になれないと叱られておったのでござるが……。今はどこにも戦さはなく、拙者が好きな音楽や歌が鎌倉の街に溢れている。素晴らしいことでござる。なので、この鎌倉の魅力や良いところを多くの人に伝えることが拙者の役目、と思ったのでござる」

と、おちむんは話す。現代に来た鎌倉武士は、この街で大事な仕事を見つけたのだ。

 

 

M&A案件の中に「ゆるキャラ」

順調に進んでいたおちむんの活動だったがその活動にストップがかかったのは今年2017年の春のことだった。

 

「その時おちむんの身元を引き受けていた初代プロデューサーが、仕事の都合で鎌倉を離れなければならなくなりました。それで、おちむんの引受人がいなくなってしまいそうになったんです」と話すのはTプロデューサー。

 

鎌倉を去らねばならなくなった前プロデューサーが、ではおちむんをどうしたいいか、と考えた時に頭に浮かんだのが、ゆるキャラのM&Aという前代未聞の方法だった。程なくして、M&Aマッチングサイト トランビにひと際目を引くゆるキャラ案件がでてきた。

 

トランビは仲介業者を通さず、自分でM&Aの相手を探すことができるマッチングサイトだ。その特長は大企業だけではなく、もっと中小規模のものまで幅広く案件を取り揃え、売りたい人・買いたい人が自由に相手を探せる点にある。インセンティブを取る仲介業者が間に入ることがないので直接相手と交渉できることも大きなメリットだ。

 

特に事業が好調に進んでいるにもかかわらず後継者不在で事業を畳まざるを得ない、と困っているような中小企業の救い手として重宝されている。そういう企業は売買価格が低く、M&Aしたくとも仲介業者が相手をしてくれないからだ。そういう企業が自分で名乗りを上げて、買ってくれる人を探せる。その相手も企業ではなく個人でも構わない。それがトランビだ。

 

詳しい情報についてはこちらを参考にしてください。

【実例で見るM&A】思い出のホテル存続のため、M&Aで事業承継 – 森のホテル

全ての経営者が、M&Aのプロになれる! 社長・高橋聡氏の考える「トランビ」新活用法

 

 

前プロデューサーは、おちむんと、おちむんのグッズ、書籍、その他権利を全てこのトランビに上げ、おちむんの次の身元引受人を探すことにしたのだ。

即座にそれに反応したのがTプロデューサーだった。

 

「私は現在、都内で会社を経営しています。事業が順調に推移したので、どこかのタイミングで新しい事業に乗り出したい、と考えていました。しかし一から立ち上げるのは資金も時間もかかる。そのため、ちょうどいい企業をM&Aする方法を前々から探っていたのです」

 

Tプロデューサーは、「個人でもM&Aができるし、何より案件に面白いものが多い」からという理由で、以前からトランビの存在を知っていて、サイトを覗いてはいたという。

 

「トランビさんって中小企業だけじゃなく、個人経営の店舗なんていうのも案件に上がってくる。『こんなのが売りに出てるんだ』って、サイトを眺めているだけで面白い。それにメールマガジンがあって、興味ありそうな案件を定期的に連絡してくれます。ついつい見てしまうんですよね。実はおちむんもメルマガに混じってあったんです」

 

メールを見るまで、キャラクタービジネスを始めようなんて気持ちは全くなかったというTプロデューサー。しかし「ゆるキャラ」がM&Aに出ている、ということで急に興味が湧き、早速、前プロデューサーにコンタクトを取った。

 

「そこで出会ったおちむんに何とも言えない魅力を感じてしまって。彼の魅力は何よりその切なさ。武者なのに、猛々しくはなく、むしろどちらかというと弱々しいし、ほっとけない気持ちになってしまう」

 

それで是非引き受けたいと申し出ると、前プロデューサーも快諾してくれた。実は他にも二社ほど企業が手を挙げていたそうなのだが、鎌倉に出向いての直接交渉を迅速に行った、Tプロデューサーのおちむん愛が評価されたとのこと。金額の小さな案件は、当事者同士がフェイス・トゥ・フェイスの話ができるのもトランビの大きな魅力だ。

 

「場所が鎌倉だったというのもきっかけの一つかもしれません。海も山も、そして歴史もあって日本の良いところがすべて詰まった場所です。訪れれば、旅情を感じさせてくれる魅力ある街です。最初は私の地元におちむんを連れて行って、そこのゆるキャラにしようかとも考えていたのですが(隣りのおちむん、慌てる)、止めました。やっぱりおちむんには鎌倉が似合っていますよね(笑)」

 

 

「ゆるキャラ」ビジネスの魅力

こうして新たな居場所を得て再出発することになったおちむん。彼に今後やりたいことは、と尋ねた。

 

「もっと鎌倉の皆様と触れ合って、鎌倉のイイところを伝えていきたいと思っているでござる。特に美味しいものなど。先日伺ったお店で頂いたカレーつけ麺は殊の他美味でござった。そういう拙者のお気に入りのお店には『おちむん御用達』ステッカーを貼らせてもらっているでござる。今後もそういうお店を増やしていきたいでござるな」

 

Tプロデューサーは、更に鎌倉市を飛び出していくことも構想しているという。

 

「今、ゆるキャラブームはひと段落し、下火になっています。確固たる目標もなく濫造されたゆるキャラたちが、倉庫の中で埋もれてる。けれども『キャラクター』というのは凄い魅力を秘めている。おちむんだって、少し街中を歩いたら子供たちが沢山駆け寄ってきて、一瞬で周りを明るくしますよ。この魅力をもっと活用していきたいですね。あと、彼は結構アクティブなので。以前はスケボーやダンスとかもやっていたので、これからはサーフィンなんかやってもらっても楽しいかもしれませんね」

 

「そう、何より彼と面白いことをしたい。それがおちむんを引き受けた大きな要因ですから」と語るTプロデューサー。

 

一大ブームとなったゆるキャラも今はあまり姿を見せなくなり、ゆるキャラグランプリも2020年をもって終了するというニュースも最近流れた。

そんな中、M&Aという形で新たな息吹きを吹き込まれたおちむん。彼が今後どんな活躍をしていくのか、目が離せない。

 

おちむん公式ウェブサイト:http://ochimun.info