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〈レポート〉「TOKYOアクセラレーター」Demo Day

地域金融機関×ベンチャー企業

若手実業家たちが未来を創る!

 

 

国内初となる地域金融機関によるアクセラレータープログラム「TOKYOアクセラレーター」が、いよいよ最終日の「デモデイ(Demo Day)」を迎えた。

主催する第一勧業信用組合(東京)と株式会社ゼロワンブースター(東京)の試みは、果たして「東京から未来を創る」ことができるのか。当日の様子をレポートする。

 

 

TOKYOアクセラレーターとは

国内初となる地域金融機関によるアクセラレータープログラム「TOKYOアクセラレーター」。

第一勧業信用組合(東京/以下、第一勧信)と株式会社ゼロワンブースター(東京)の共同による同プログラムは、昨年5月のプレスリリース以降、各メディアを通じて多くの耳目を集めてきた。

そして、2月17日、いよいよ成果発表の場である「デモデイ(Demo Day)」を迎える。

当日、会場には多くのベンチャー投資家や報道機関、自治体関係者らが集い、プログラムを終えた6チームのプレゼンテーションを見守った。

 

アクセラレーターとは若手企業の革新的な事業に対し、メンターと呼ばれる各種専門家がサポートを行い、企業価値の向上を目指す支援プログラムのこと。

近年、国内外で名だたる企業が実施し、にわかに話題となっている。

多くの場合、大手がベンチャー企業を支援しながら共同で新規事業創造やイノベーションを目指すが、同プログラムの特徴は銀行と比べて小規模な金融機関である信用組合が主催している点だ。

登壇したゼロワンブースターの代表取締役・鈴木規文氏は「第一勧信さんは地元の企業やコミュニティと関係が深く、そこから多くの出会いやアイデアが生まれました」と語る。

 

経済活性化の起爆剤として世間からベンチャー企業に寄せられる期待は大きい。

しかし、大手の企業や金融機関はその性質上、不確実な市場には介入したがらず、そこに日本経済のジレンマがある。

いっぽうで第一勧信は地域密着型の金融機関として中小零細企業に対する創業支援を積極的に行ってきた。

鈴木氏いわく、第一勧信にとって「ベンチャー企業へのリスクマネーの供給はもっとも得意とするところ」という。

だからこそ、同プログラムは注目を浴びてきたのだ。

 

応募条件は『東京から未来を創る革新的なビジネスであること』。

113の起業家・事業家チームがエントリーし、最終的に昨年9月に開催されたビジネスプランコンテストで勝ち抜いた9社がプログラムの参加資格を獲得した。

運営期間は5カ月。参加チームは第一勧信、ゼロワンブースター、その関連企業の経営者などで構成されたメンターから指導を受け、事業の軌道修正とブラッシュアップを行っていく。

そして、最終日となるデモデイでは「ピッチ」と呼ばれるプレゼンテーションを1社5分45秒で行い、その成果を発表する。

鈴木氏は「まだまだ伸びしろがあるベンチャー企業ばかり。ぜひ、引き続き、支援と応援をお願いします」と挨拶をした。

 

 

バラエティに富んだデモデイのピッチ

この日、ピッチを行ったのは6社。以下、順を追って紹介する。

 

トップバッターは株式会社ペットボードヘルスケア(写真上)の堀宏治代表。

ペットヘルスケアサービス「ハチたま」を展開する同社は、外出先からペットの世話ができるIoTデバイスを使ったサービスのほか、動物介護士によるペットケアシッター事業などを紹介。

また、大手損害保険会社との共同によるペット保険の研究が進行中であることを報告した。

司会者から同プログラムに参加したメリットを尋ねられると「さまざまな企業をご紹介いただきました。

また、多くの方から励ましの言葉を頂戴し、経営者として孤独感を抱えていたので大きな支えとなりました」と5カ月間を振り返った。

 

 

この日、ひと際目立っていたチームは赤い法被を着た株式会社オマツリジャパンだ(写真上)。

和太鼓と「わっしょい!」のかけ声を合いの手に、代表の加藤優子氏がピッチを行った。

同社は祭りの企画運営、体験ツアーなどを実施する「お祭り専門会社」。

商店街や自治体とともに祭りのプロデュースを行うほか、ボランティア・スタッフを活用して人手不足の解消にも一役買う。

今回の参加により「信用度がアップしました」と語るように、期間中にスタッフが増え、地方創生に関する案件も増加。

「第一勧信さんは地域のお祭り主催者との関係が良好で、話がスムーズにまとまり、多くの方々と関係性をつくることができました」と加藤氏。

 

 

株式会社IPPON(写真上)の竹下浩代表はGPS連動型の街中音声ガイドサービス「Wanderpass」を紹介。

スマートフォンを片手に観光地などで同サービスを利用する様子をプロジェクターに流しながらピッチを行った。

将来の展望は「日本の街全体を音声ガイドでテーマパークのように」すること。

期間中、制作チームを再編成し、第一勧信の取引先の協力を得ながら、対象エリアを6から12エリアにまで拡大。現在、利用できるエリアは浅草や渋谷など。

「メンターからは頻繁に電話があり、常に気にかけてくださいました。実際にアイデアをいただくこともあり、とてもあたたかい支援を受けました」。

 

 

初心者でも農業で活躍できる仕組み「LEAP」を提供するのはseak株式会社(写真上)。栗田紘代表は「農業でしっかり収入が得られる仕組みを作りたい」と創業の動機を打ち明ける。

同社ではオンラインで農作業が学習できるシステムのほか、農地や土壌、ビニールハウス、そして販路にいたるまで、農業に必要なすべてを一手に提供する。

今回の参加を機に第一勧信との連携も決まった。

「既存の農業関連のローンは厳しい審査があり、特に初心者が融資を受けることは難しい。第一勧信さんとはこれから諸条件を詰めますが、より良い条件でファイナンスを提案できるサービスも実施する予定です」。

 

 

オンラインのメンタルケアサービスを提供する株式会社エクセリーベ(写真上)は、テレビ電話で高齢者の見守りを行う「見守りん」を紹介。

産業カウンセラーでもある大橋稔代表は「離れて暮らす両親を心配する方々に訴求したい」と語る。

サービス内容はテレビ電話でカウンセラーがモーニングコールをし、利用者の子どもには近況報告をレポートするというもの。

認知症予防や親子の会話のきっかけにもなるという。

「高齢者との対話データを蓄積し、将来的にはAI化も視野に入れています。今回、地方都市の市長や大手企業のトップと面会する機会が得られ、これをきっかけに地方への展開を本格化させたいと思っています」と大橋氏。

 

 

最後に登壇したのはお寺ステイビジネスを提供する株式会社シェアウィング(写真上)の雲林院奈央子代表。

「日本の文化や歴史が詰まったお寺に宿泊することで自己を清める、そんな感動体験を世界中の方々に味わっていただきたい」と意気込みを語る。

廃寺などを宿房化する事業のほか、お寺での写経イベントなどを企画。今後は行政や地方自治体と連携して「寺社を起点にした地方創生をしたい」と語る。

「弊社は起業して1年未満。右も左も分からない中、今回、いろいろな方から有益なアドバイスをいただきました。実際に地方の信組さんを紹介していただくなど、たくさんの交流も生まれ、本当に感謝しています」。

 

 

信組にしかできないリソースの提供

大手企業などが行うアクセラレーターは業種や方向性に偏りが出るものだ。それに引き換え、これほどバラエティに富んだチームが参加したプログラムは珍しい。

登壇した第一勧信の新田信行理事長(写真下)は開口一番「じーんときました」と感想を述べた。

それは理事長自ら先頭に立ち、若い起業家たちとともに5カ月間を走り抜いた率直な思いだろう。

 

「私どものモットーは〝人とコミュニティの金融〟、そして〝育てる金融〟です。

今回のプログラムでは我々にしかできないリソースの提供ができたのではないかと自負しています。そして、最後は私にではなく、ここにいる素晴らしい創業者の皆さんに拍手をお願います」

 

そう締めくくると会場は大きな喝采に包まれた。

 

 

経済活性化の起爆剤たるベンチャー企業。それを後押しする地域金融機関によるアクセラレータープログラム。

この試みには次期開催を含め、大いなる期待がかかる。

そして、この日、確かに見えたのは、東京から創る未来であった。

 

 

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◆2017年4月号の記事より◆

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