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未来の沃野を拓け!ビジネスニューフロンティア⑨ 

世界3位の地熱大国、日本

身近な温泉発電を使える仕組みを作れ!

◆取材・文:佐藤さとるオビ スペシャルエディション

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日本は世界有数の火山国である。先の御岳山の噴火で、火山の恐ろしさをまざまざと見せつけられた。しかし豊富な火山帯は、我々に大きなその恩恵をもたらしていることも確かだ。その一つが日本全国に点在する温泉場である。

その温泉が新たな電源として注目されている。温泉のお湯を使った「温泉発電」だ。原理は地熱発電と同じだが、新たな掘削を必要としないため、初期投資も少なくて済みそうだ。果たして温泉発電は広がっているのか。どこまで可能性があるのか。

国が国立・国定公園内の小規模温泉発電を推進

日本はアメリカ、インドネシアに次いで3番めの地熱大国である。その推定資源量(賦存量)は約2350万kW、およそ原発20基分だ。 この地熱を利用した発電システムが地熱発電である。現在国内で17カ所が稼働中だ。

実は地熱発電はFIT(固定価格買取制度)の対象ともなっている。しかも買取価格はkWhあたり40円プラス税(1.5万kw未満)と、太陽光発電と比べても遜色はない。だが新たな計画が持ち上がったという話もない。

理由の1つは原発などを重視し、国が積極策を取らなかったこともあるが、場所の問題が大きい。熱資源の8割が国立・国定公園内にあり、原則的に自然破壊に繋がる可能性のある開発が禁止されていたためだ。だが3・11後、国はこの方針を緩和。国立公園・環境省は2012年に、国立・国定公園内でも自然環境への影響の少ない温泉発電は、積極的に推進するとしたのである。

 

地熱発電は、岩盤の地熱滞留層まで掘削して、そこから出てくる200℃~350℃、1・5〜15 MPaという高温高圧の蒸気・熱水を利用するものだが、温泉発電は、基本温泉地の余ったお湯を利用するため、初期投資が少なくて済む。

また温泉発電は、一旦稼働すると天候に左右されないため年間を通じて一定量の発電が期待できる。平均稼働率は約8割。太陽光発電の約5〜7倍の高効率である。

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さらに地熱発電ほどの高温を必要とせずとも発電できる、アンモニアなど沸点の低い媒体を使ったバイナリー発電が開発されたことで、100℃未満でも発電ができ、温泉発電が現実的となったのだ。

現在、経産省や環境省などが、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)やJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)や大学、自治体、民間企業などと組みながら実証実験などを各温泉地で進めている。

ただその発電可能性は全国合わせて約70万kW。原発1基分にも満たない。太陽光発電の1600万kWに比べても小さい。

 

温泉旅館にとって「一石二鳥」のメリット

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NEDO新エネルギー部熱利用グループの主任研究員・生田目修志さん。「再生可能エネルギーを捉える時には、エネルギーのスケーラビリティが重要」と語る。

だがNEDOの新エネルギー部熱利用グループの主任研究員、生田目修志さんは、「決して魅力がないかというとそうではない」と話す。「1軒の旅館分を満たす発電量は十分確保できる」からだ。温泉発電を推進する環境省の担当者も、「発電規模によっては災害時に温泉街や旅館の電気を確保することができ、自立・分散型で地産地消の電源としても期待できる」と意義を語る。

さらにNEDOの生田目さんは「温泉発電は、温泉旅館などの事業者にとっても一石二鳥の効果が期待できる」という。

「たとえば90℃くらいの温泉の場合、そのままでは高温すぎて使えない。45℃くらいに冷ましてはじめて温泉湯として使える。そのため温泉事業者によっては、加水したり、樋を引いて空気に晒して冷ますなど、冷やすコストがかかる。これがバイナリー発電だと、蒸気でタービンを回すときに熱交換をするので、90℃が60℃くらいに下がる。減温装置をかけずに電気もつくれるので一石二鳥となる」

 

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NEDOが宮城県鳴子町の鳴子温泉で行っているバイナリー方式の地熱発電。

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バイナリー温泉発電イメージ。低温で気化する媒体を使うことで、温泉発電の可能性が広がった。

温泉地としては、願ったり叶ったりだが、ことはそう簡単には進まない。技術的にクリアすべき課題があるからだ。

生田目さんによれば、大きく3つあるという。

1つは地熱発電に比べて、湯量が少ないこと。NEDOの実証実験では1、2本の温泉井戸で10 kW程度の規模。「発電量が小さいということは、売値が同じだとコストパフォーマンスが悪くなる」 もう1つが、発電後の媒体の扱いだ。温泉発電では、媒体の蒸気を使ってタービンを回して発電するが、発電後の蒸気は温度が下がるものの、気体のまま。これを効率よく使うためには、凝縮器で冷却して液体化する必要がある。そのための水が近場から引けることが前提となる。「近くで川や沢があるなら使いやすいが、ないとコスト高となる」

3つめが温泉そのもののウリである、「湯の花」と呼ばれる「スケール」だ。これが使っているうちに配管を塞いでいくため、定期的に取り除く必要があるのだ。温泉発電技術の最大の課題とも言われる。

スケールは泉質によっても違うが、多いと2週間で導管を塞ぐこともある。「いまこれを工学的に取り除く技術開発に取り組んでいます。薬剤を使う案もあるが温泉発電はお湯をその後、温泉などで使うので難しい面もある」

 

技術とは別の問題もある。温泉地の合意形成だ。実際環境省の事業として行っている長崎県小浜温泉での実証運転の際には、地元温泉組合の反対が起こった。湯量変化の不安や公害などの懸念が起こしたものだが、地域住民の頭越しの取り決め方も地域の反発を買ったようだ。小浜温泉ではその解決策として、地元に「一般社団法人小浜温泉エネルギー」を創設、温泉発電開発の主導権を地域住民が持つようにした。

最大の技術課題、スケールについては、「完全な解決策はなくとも、2週間に1回取り除いていたことが、1カ月、2カ月に1回と期間を延ばすことでコストパフォーマンスを上げられないか考えている」(生田目さん)という。

 

温泉発電推進のメニューは揃うが…

ではどのくらいのコストパフォーマンスの数値が出れば、事業レベルに持っていけるのか。生田目さんは「10 kWを1000万円が1つの目標」という。1000万円くらいなら「地元の信金さんなども融資しやすいのでは」。 環境省の担当者は「温泉発電は設備の初期投資が大きな負担となり、FIT制度や環境省の設備補助制度を使えば、かなり負担減になる」と話す。

実は経産省のFITや環境省の助成メニューのほかに、各自治体でも実証運転や導入についての助成補助メニューはかなり揃っている。地銀や信金でも独自の融資メニューを持っているところもある。

旅館など1つの事業体ではリスクヘッジできない場合は、複数の事業体が連携して特別目的会社を受け皿にして、リース会社が機器を貸し出すケースも出ている。

 

仕組みも魅力も十分なのに普及のドライブ感が弱いのはなぜか。1つは地熱発電に対する警戒感が強いからと察する。経産省も環境省も地熱発電の一形態と位置づけているが、地熱発電だと新規掘削作業のイメージがつきまとい、「余剰のお湯の利用」感がない。

もう一つは、グリーンエネルギー、オフグリッドの付加価値イメージが足りないことだ。たとえば旅館に「温泉発電の宿」、「災害時に強いオフグリッドの宿」の認定マークなどがあれば、集客力に繋がるはずだ。外国人観光客の受けもいいだろう。

温泉熱源の多段階利用の具体的な絵姿の提示も弱い。すでに一部温泉熱を利用した野菜のビニールハウス栽培や魚の養殖が行われているが、旅館観光業だけに限定せず、地域産業全体での総合的な利用スキームが、絵姿となりそのメリットとして具体的に「見える化」しないと、地方での普及はなかなか難しい。もちろんそこに参加するのは、必ずしも地域住民でなくてもいいだろう。ドライブの知恵はまだまだある。

 

オビ スペシャルエディション

2015年1月号の記事より

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