FCEトレーニング・カンパニー代表、安河内亮

「伸びている企業の秘密は人材育成にあった!」

成長を遂げている企業の経営陣は、どのようにして人材育成を行っているのだろうか。

これまでに4,500社を超える企業の研修・教育を行ってきたFCEトレーニング・カンパニー代表、安河内亮が伸びている成長企業を取材し、人材育成のポイントを探る。

 

第6回 株式会社アサヒディード

株式会社アサヒディード(社員数528名/アルバイト含む)

本社:大阪市中央区本町2-1-6 堺筋本町センタービル11F

TEL:06-6261-2201 FAX:06-6261-3312

URL:http://www.asahideed.co.jp/

 

株式会社アサヒディード

1946年に創業し、大阪と兵庫に12店舗のアミューズメント施設のプロデュース及びマネジメントを行う企業、株式会社アサヒディード。「企業の根幹は『人財』である」という信念を掲げた企業経営において「次世代リーダー」を育むために踏み出した一歩とは?

次世代を担う立場である森戸氏、育む立場である人材開発部門の豊田氏にお話を伺った。

─貴社では「人財」を大事にされていると伺っていますが、社内での特別な取り組みなどがあればお聞かせください。

 

森戸氏:私自身、社内における『業務標準化』を担当させていただいていますが、その中で、社内の改善提案を上げる仕組みがあります。具体的には「もしもしょ」というものを各店舗から集める仕組みです。目安箱のようなものですね。7年以上続いている取り組みなのですが、社員だけでなく、アルバイトスタッフ含め、各店にポストみたいなものを用意し「今お店はこういう状態なので、こう変えたい」という提案を自由に上げていただくものです。

上がった提案に関しては各店舗で改善に取り組むのですが、その全体の取りまとめや、よかった内容を他の店舗でも展開していくということをしています。その情報を店長会議で共有したり、優れたものは表彰したり。提案を推進するコンテストなども開いています。半期で200件近くの提案が上がっていますね。

 

─素晴らしい取り組みですね。すでに良い組織風土ができているように思いますが、なぜ研修を導入されたのでしょうか?

 

豊田氏:次世代の会社を担う人財を育成していくうえで、今以上のリーダーシップを発揮してもらうために必要なことは何か?という思いから、『7つの習慣®研修』(※)に行き着きました。リーダーシップ、その原理原則という「ベース」の考え方を共有することで、若い方々が新しいリーダーシップを発揮し会社を変えてくれるのではないか、という期待を持って導入しました。

導入時は、このような研修は経営幹部陣から順に受けていくのがいいのではないか、とも悩みましたが、今弊社に求められているのは、若い世代の人財に経験や知識や技術を提供し、彼らが成長することで会社を成長させるというサイクルだという思いから、森戸のように今後リーダーになってもらう層を『選抜』して受講者を決めました。

受講者の上司陣にも選抜するということを理解してもらいながら進めました。

 

森戸氏:受講者宛に参加連絡を頂いた後、上司に報告をしました。そこで印象的だったのは、上司や周囲からの反響ですね。「自分が出たかった」「いい研修だよ」という声をたくさん聞きました。このような反響をもらうことで自分自身「代表として選ばれたんだ」という意識が強くなりましたし、業務の合間で研修を受ける、という感覚ではなく、何か持ち帰れるように、社内に展開できるようにと考えながら、いつも以上に準備万全で研修に臨むことができました。

 

豊田氏:研修というのは、ある意味報酬の一部だと考えています。頑張っている人財により成長してもらうためのチャンスですね。それを送り出す上司側にはよく理解いただいた結果だと考えています。もちろん、上司として悔しい部分もあるとは思います。意欲が高い人ほど、「自分が研修に出たい」と言っていたようですので。でも、そこで上司陣が「負けないように成長しよう」と思うことも選抜した一つの効果になるかと考えました。

 

─受講後、変化があった点などはありますか?

 

森戸氏:最もインパクトが大きかったのは「第3の習慣」(「最優先事項を優先する」という時間管理に関する内容)です。私の仕事の1つに5店舗の清掃業務スタッフの管理があります。アルバイトスタッフなのですが、長く働いてほしいという気持ちから、これまでは連絡が入れば、それがどんな内容であれ確認もせずに、とにかくすぐ現場へ飛んで行っていました。

仕事が詰まっているときもです。でも研修の中で出てきた「緊急性と重要性」の軸で優先順位をつける、という内容を聴いて自分事として考えていくうちに、大きく考えが変わりました。「連絡があったらすぐ駆けつける」状態をやめ「緊急度」を図るとともに、スタッフ全員とのミーティングの場で私のスケジュールを共有するようにしました。

すると、何でもすぐに私に連絡するのではなく、まずスタッフさんが直接一緒に働く店舗の社員に相談してくれたり、スタッフ同士で相談してから私にメールをくれるようになったり、と自分たちで考える機会がとても増えました。それらをきっかけに、店舗の社員もスタッフとのミーティングに立ち会ってくれるようになり、「我々も協力できることがあればしますから、なんでも言ってくださいね」と声をかけてくれたりするようになりました。

私がいなくても、望む結果が得られるということがよくわかりましたし、良い方向に変わるきっかけを作ることができましたね。

 

─森戸さんご自身のリーダーシップが増し、影響力が広がっているのですね。次世代を担うリーダーとして目指すこと、これから期待することをお聞かせください。

 

森戸氏:すごいな、と思っているのは受講した他のメンバーのほとんどが、今もこの研修での学びを実践していることなんです。正直まだまだ組織を変える、会社を変える、というのは自分にとっては大それたことのように思えます。でも、行動を変え、まず自分が変わることで、今は小さい芽かもしれないけれど、それを少しずつ続けていけば、全体として大きく変わっていけるかもしれないという思いになったのは確かです。

研修で学んだことを共有するだけではなく、我々自身がこれだけ変わったと言ってもらえるような状態になることで、それが広がって会社全体に変化が起きればいいな、と思っています。それに、それが受講させていただいた側の責任かな、とも。

 

豊田氏:もっと主体的な会社にして、新しい営業、新しいサービス、新しい事業というのが次々と生まれる会社にし、お客さまにより楽しんでいただける娯楽やよりよいサービスを提供する会社にしてシナジーを生み出したいと思っています。それに対して私も貢献していきたいですね。

それに……今回森戸をはじめ受講者の変化を見ながら、私も危機感が出てきました。役職としては、研修受講者全員の上の立場ではありますが……。もっと自分たちも頑張らないといけない、次の世代が成長し突き上げて来るぞ、負けてられないぞ、と。他の上司陣も、そう感じてくれていればありがたいですし、それこそが、ある意味この研修導入の成功とも言えるかなと思います。

 

FCEトレーニング・カンパニー代表・安河内亮の一言

今回は、「次世代リーダー育成」の成功事例として、人材開発部門の方と次世代を担うリーダーの方にインタビューをさせていただきました。アサヒディード様の事例はまさに成長のよいスパイラルを生み出しているケースだと思ったためです。

今回のポイントは以下の2点です。

 

①組織の成長には「下からの突き上げ」が必要

②一人ひとりの変化が、組織の変化を生み出す

 

今回の大きなポイントは「次期リーダー層」をあえて「選抜して」研修を受講させた、という点です。

「選ばれた」という意識が受講者本人に醸成されることで、吸収意欲は高まり研修効果は最大化されます。また、上司は送り出す側ではありますが、研修後に行動を変える部下を見れば、豊田さんのように「自分だけこのままではまずい」という考えをもつきっかけにもなります。

トップダウンだけでなく、「あえて下から突き上げさせる」状態を生み出したことで、健全な危機感をもって成長する土台を見事に作り上げた好例と言えます。

また、森戸さんの言葉にあったように「まず自分が変わる」という意識を一人ひとりが持てば、組織は必ず変わります。

例えば、森戸さんの例にあったように時間管理は個人的な問題と考えがちですが、多くの人と関わるリーダーがその時間の使い方を見直すと、周囲に影響が出ます。このことに気付いて、行動に移す人財を生み出すことこそが、組織変革の大きな一歩と言えるのではないでしょうか。

(※) 「7つの習慣®研修」はFCEトレーニング・カンパニー主催の「7つの習慣®InnovativeMind研修」をさします。 「7つの習慣®」はフランクリン・コヴィー・ジャパン社(FCJ社)の登録商標です。 本プログラムはFCJ社とのパートナーシップ契約に基づき、FCJ社の監修のもと、研修および振り返りテキストを通してビジネスシーンでの実践を目的に開発しております。

 

安河内 亮(FCEトレーニング・カンパニー代表)

東証一部上場企業にて、大手小売チェーン等の経営支援に携わり、その後、人財開発部門へ。就職人気企業ランキング日本50位へランクイン、「働きがいのある会社」ランキング入賞など実績を残す。その後FCEトレーニング・カンパニーを創業。自らも人財コンサルティング、社内大学構築等を実施。嘉悦大学非常勤講師。