第一勧業信組と青山学院大学発のベンチャー企業との調印式で、協定書を掲げる新田理事長(右)と玉木欽也教授(左)

 

 

地域活性化のカギは人材育成にアリ!

これまで全国の信用組合や地方自治体と連携し、地方創生に取り組んできた第一勧業信用組合が、青山学院ヒューマン・イノベーション・コンサルティング株式会社(東京都渋谷区)と人材育成などで連携協力することを発表した。

同信組が地方創生事業において大学発ベンチャー企業と連携するのは初の試み。そこにはどんな意図があるのか。

キーワードは地方を面白くする「観光人材の育成」だ。12月12日に行われた調印式の模様をレポートする。

 

地域リーダー不在の問題解決へ

数ある地方創生の成功事例には共通点がある。それは、時にはパワフルに、時には戦略的に、時にはコロンブスの卵のような発想で事業を動かす地域リーダーたちの存在である。

 

主体的に事業構想を生み出し、総合的にプロジェクトを演出し、持続可能な運営体制をマネジメントするーーこれらのことを実行できる地域リーダーの不在が、実は地方創生が実現できない一因となっていることに、残念ながら、気づいていない地域や自治体は多い。

 

12月12日、第一勧業信用組合(東京都新宿区)の本店にて開かれた同信組と青山学院ヒューマン・イノベーション・コンサルティング株式会社(東京都渋谷区)による連携協力に関する調印式は、「地域リーダー不在」の問題を解決する試みであると言える。

 

同信組の地方創生に向けた取り組みは、これまでシリーズ「地方創生プロジェクト」と題して本誌でお伝えしてきた通り。現在では全国22の信用組合や3自治体と連携協定を結び、各地で成果を挙げているが、同信組が地方創生事業の一環として大学発のベンチャー企業と連携するのは今回が初となる。

その経緯を同信組の新田信行理事長は次のように語る。

 

「これまで地方創生を旗印に多くの連携協力を進めてきましたが、かねがね、大学との連携、特に人材育成の分野での連携が必要ではないかと考えていました。そうした中で青山学院ヒューマン・イノベーション・コンサルティングさんとの出会いがあり、本日の調印式に至りました。私自身、今後の展開を非常に楽しみにしております」

 

 

観光人材の育成に向けて

同社は学校法人青山学院と同大学教員有志の共同出資により2008年に設立、国際社会においてリーダーとして活躍できる人材開発や事業イノベーションの実現を目指すベンチャー企業である。

これまで文部科学省や経済産業省などとの国家プロジェクト事業、産学共同研究、国内外の他大学との大学連携などを推進してきた実績があり、地方創生に関する提言も積極的に行ってきた。

 

同社の代表取締役であり、青山学院大学の経営学部教授でもある玉木欽也氏は地方創生について次のように話す。

 

「事業イノベーションや顧客創造を研究テーマに活動する中で、4年ほど前から地方創生に関連した事業にも従事するようになり、地域コミュニティづくりに関する共同研究などを行ってきました。

地域産業の活性化や新事業創出のためには産学官連携はもちろんのこと、人やお金を動かす金融機関によるバックアップが重要であると痛感しています。そうした意味においても、今回の連携協力には大きな期待を感じています」

 

今後は両者が持つノウハウやネットワークを生かした連携により、地域社会や産業界の発展に向けて共同でさまざまな支援を実施していく。具体的には同信組の連携先にて合同セミナーを開催し、地方創生で成功したビジネスモデルの情報を発信する。あるいは、現地調査など同社が持つ調査研究のノウハウを活用し、それを地方創生におけるマーケティング戦略などに応用していく予定だ。

 

「集客やPR活動、地産品のブランディングに関する支援も共同で企画していきたいと考えています」と新田氏。

 

特に両者が力を込めるのは観光人材の育成だという。

「東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、インバウンド需要が伸びる中、訪日外国人観光客による消費拡大には大きな期待がかかっています。インバウンド戦略について深い知見をお持ちの玉木先生の力を、当組合が連携する各地の信組や自治体の地方創生事業に反映できればと考えています」

 

 

インバウンド戦略を成功に導くには?

訪日外国人観光客数が初めて年間2000万人を突破した2016年に引き続き、2017年も前年より45日ほど早い9月の時点で2000万人を超え、インバウンド市場は堅調な伸びを示している。

日本政府は東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には「訪日外国人観光客数4000万人」という目標を掲げている。しかし、海外の旅行者にもっとも人気があるのは、いわゆる「ゴールデンルート」と呼ばれる東京、京都、大阪を結ぶルートであり、海外メディアに取り上げられたことがない地方は、インバウンド消費をほとんど享受できていないのが現状だ。

 

メジャーではない多くの地方にとって、一見、インバウンド戦略はブルーオーシャンのようにも感じられるが、それを成功させることは「容易ではない」と玉木氏は説く。

 

「地方創生で観光事業に成功し、国内旅行者の来訪が増えたからといって、それがインバウンド消費に繋がるかといえば、そうではありません。『訪問したい』『滞在したい』と海外の旅行者から熱望されるには魅力的な日本文化や地方文化を堪能してもらえる国際交流プログラムを生み出す必要があり、そのためには異宗教、異民族、異文化、多国籍に対応したコミュニティづくりが肝心です。

 

私たちはそうしたコミュニティづくりを『ダイバーシティカルチャー・シティ構想』と呼んでいますが、それを実現すべく欠かせないのが、地方創生にプラスして、総合的にプロジェクトを演出できるプロデューサーや実践監督ができるディレクター、言わば地域を先導するリーダーたちです。

これまで我々が蓄積してきた教育プログラムを活用し、セミナーやグループワーク実習などを通じて、そうした人材の育成に全国の信用組合様とともに取り組んでいきたいと考えています」

 

 

オリンピック後を見据えて

もう1つ玉木氏が提案するのが観光経営事務局/DMO(Destination Management Organization)の構築である。

 

観光先進国と呼ばれる欧米では「観光地経営」の視点に立ち、マーケティングやプロモーションなどの観光振興マネジメントを担う組織としてDMOの存在が着目され、近年、日本でも観光関連産業の分野で話題にのぼる機会が増えている。

 

「地域の行政や宿泊業者、飲食業者、住民など多様な関係者と協同しながら、地域の『稼ぐ力』を引き出して収益を確保し、観光地域づくりの舵取り役をするのがDMOです。また、各種データを収集・分析して、データに基づくブランディングの策定をすることも重要な役割になります。

こうした組織の構築を首都圏側の私たちがバックアップすることで、地方におけるより活発な観光事業の創出を実現したいと考えています」

 

日本政府は近年、インバウンドが経済成長の原動力になり得ると捉え、「観光立国」の推進に注力する方針を打ち出している。現在、東京オリンピック・パラリンピックがインバウンド戦略拡大の強い追い風となっているのは確かである。

 

しかし、本当の意味で観光立国を目指すのであれば、オリンピック特需に依存しているだけでは、その実現は難しい。

 

「本来は国際的なイベント事がなくても訪日外国人観光客を継続的に獲得する必要があります。ですから、本当に見据えなくてはならないのはオリンピック後であると考えています。

そのためにもダイバーシティカルチャーに配慮した、その地域ならではの特色ある魅力を発信できる事業創造が重要であり、地方創生に軸足を置いたプロデューサー、ディレクターといった専門家の育成やDMOといった組織の構築が欠かせません」

 

 

地元発信の着地型観光で地方を面白く

近年、地元の事業者がその地域ならではのプログラムを企画し、参加者が現地集合、現地解散する「着地型観光」が注目されている。

 

国内旅行者の場合、出発地となる都市の旅行会社が、訪日外国人旅行者の場合、自国の旅行会社がそれぞれ企画した旅行商品やプログラムよりも独自性が高く、地元の情趣を堪能できることで人気を呼んでいる。

また、メジャーな観光地では味わえない体験ができることも魅力であり、地域振興への期待も大きい。

調印式当日も「インバウンド」と並んで、両者から頻繁に出たキーワードが「着地型観光」である。

 

ただ、どんなにアイディアの原石があっても、それを磨き、収益確保を可能にし、継続的に事業運営を行うには、やはり専門知識や総合演出力を身につけた地域リーダーが不可欠だろう。

今回の連携協定で新たな可能性が広がった同信組の地方創生事業によって各地方に優れたリーダーが誕生すれば、きっと観光立国として日本の地方は面白くなる。その地域ならではのワクワクする体験を国内外の旅行者は待ち望んでいる。

 

 

プロフィール

玉木欽也(たまき・きんや)氏…1957年生まれ。

青山学院大学経営学部教授。同大学ヒューマンイノベーション研究センター所長。

青山学院ヒューマン・イノベーション・コンサルティング株式会社代表取締役。

 

青山学院ヒューマン・イノベーション・コンサルティング株式会社

〒150-8366 東京都渋谷区渋谷4-4-25

TEL 03-6427-9470

URL:http://www.aogaku-hicon.jp/

 

第一勧業信用組合〈本店〉

〒160-0004 東京都新宿区四谷2-13

TEL 03-3358-0811

URL:http://www.daiichikanshin.com/