◆文:菰田将司

 

 

関東中の大学からメンバーを集め、年間で数千万の予算を動かすインターカレッジサークルがある。その名は「AGESTOCK (エイジストック)。

 

卓越した企画力と運営力を持ち、2017年11月にTOKYO DOME CITY HALLで二日間開催されたライブイベントでは、今人気絶頂の乃木坂46三期生などを招きのべ6000人以上の観客を動員するなど、大成功を収めている。

サークルOBが様々な一流企業に就職、または学生起業する者も多いという。しかしその理想はもっと先にある、と話すAGESTOCKの晒名駿代表に、今後進もうとする道筋について伺った。

 

一人ではできないことでもココなら実現できる

晒名駿 AGESTOCK代表

 

2016年の早稲田大学祭。人気バンド「凛として時雨」のドラマーでありDJもするピエール中野氏を招いたトークショウは、多数の観客を集めていた。

その大観衆に気をよくしたのか、ピエール中野氏のトークも弾み、ショウは大盛況のまま幕を閉じた。

 

その様子を満足気に見つめていた人がいる。その時、まだ大学一年生だった晒名氏。この時、早稲田祭の企画運営をしていた。

 

「新入生がAGESTOCKに入って最初にする仕事は、大学祭の企画・運営です。特に芸能人やアーティストをゲストに呼ぶイベントを担当するのですが、芸能人と至近距離で接するのでテンションが上がります。大学生になるとこんなことができる!自分はもっと色々なことができる!ということを実感できます」

 

 

現在はAGESTOCKの代表になっている晒名氏は、当時を振り返ってそう話してくれた。

 

 

「私は愛知県の尾張旭市出身。高校生の頃から企画をすることに興味があって、文化祭でも積極的に動き回っていた思い出があります。高校卒業後は、明治大学に進学して東京に出て来ました」

 

 

実は高校を卒業する時に、ある出来事があった。中学校・高校とハンドボール部で懸命に努力していた晒名少年だったが、高校の引退試合の時、監督からの指示でポジションを外されたのだ。

 

 

「そこについたのは自分の後輩でした。自分はそのポジションに自信があったのに、そこを評価してもらえなかった。6年間プレイをしていた筈なのに、最後の試合で後悔が残った。『果たして自分は本当に全力で打ち込んでいたのか?』。

 

 

評価するのは他者ですが、そう評価させてしまった責任は自分にあります。だから、もうそういう後悔はしたくない、自分に負けちゃいけない、と思ったんです。今でもその悔しさは胸に残っています」

 

 

だから、大学では全力で物事に打ち込もう。そう思って上京してきた晒名氏が入学後に選んだのがAGESTOCKだった。

 

 

「春、様々なサークルを見て回りながら、大学四年間、自分は何に熱中したらいいのだろうか、と悩んでいました。その時に目に飛び込んできたのが、日本武道館や両国国技館、横浜アリーナ、東京ドームシティなどを観客で埋め尽くす大規模なイベントも運営していたAGESTOCKだったんです」

 

自分がのめり込めるのはココだ。そう決心した晒名さんは即、入団を決意する。

 

 

「入会して一気に自分の可能性が広がった気がしました。一人では企画を考えても実現は難しい。けれどもココなら多くの仲間がいて、実行力がある。実現できるかも、という希望に満ち溢れている。

AGESTOCKは『学生の熱意は、限りない可能性を持つことを証明する。』というヴィジョンを持っていることを入会して知りました。自分が悔い無く大学時代をぶつけることができるモノに巡り合えたと思っています」

 

 

AGESTOCKがやる、ということをネームバリューにする

AGESTOCKは2006年にスタートし、関東50大学、特に早慶MARCHから現在150名ほどのメンバーを集めている。

 

具体的な活動は、イベントの企画やフリーペーパー・Webマガジンの発行、各大学祭への出展と運営、そしてそれらのアウトプットを支える広報・渉外活動である。

 

 

「内部にはイベント局・フリーペーパー局・広報局・渉外局・総務局の5つがあり、入会したメンバーは各々に配属されます。また、クリエイティブチームやキャスティング部門も独立して存在し、メンバーは局と兼任して動画制作やデザイン、ウェブマガジンの作成などを行います。

各局長の上には代表・副代表が置かれ、彼らが集まる全体ミーティングが週に一回行われ、毎回100人ほど集まります。そこで、代表などを選出する幹部選挙も行われます」

 

 

幹部選挙は毎年7月、新歓の時期が終わった頃。昨年、二年生の時に立候補した晒名代表は、自分のAGESTOCKにかける熱意を強く訴え、見事信任を勝ちとった。

 

 

「私が最も重点的に取り組んでいるのが、経営の黒字化です。現在、AGESTOCKは年間で5000万円ほどの予算で運営しています。その内、5割は協賛企業からの支援、残りの5割がイベントで販売されるチケット代と会員費で、メンバーの持ち出しも多い」

 

それでなんとか差し引きゼロでやりくりしているわけだが、もっと利益を出して持ち出しを少なくすれば、会員も増え、更に大規模なイベントを行うこともできる、と晒名代表は語る。

 

 

「現在、フリーペーパーは年に2回発行、大きなイベントは春と秋の2回行っていて、昨年は5月に赤坂BLITZで、11月に東京ドームシティで行いました。知名度の向上、特に学生と企業にAGESTOCKの名を知ってもらうためにアウトプットする機会を増やしていきたい。

学祭でゲストを呼んでやるイベントは、集客のことを考えるとどうしてもチケット代を安く設定しないとならないので費用対効果としてはあまり良くはない。また音楽アーティストの場合は客層が限られてしまうので、集客の点でデメリットです。

ですから今度ゲストを呼ぶ時は、もっと広く集客を見込める、例えばイケメン俳優などを招いて行いたいですね。そうすればチケット代を高めに設定しても集客できると思います」

 

同時に、協賛企業からの支援にも力を入れたい、と話す。

 

「渉外局には現在50名ほどのメンバーがいて、日々企業訪問をしています。やり方は、一般企業の営業と同じ様にテレアポして訪問し、プレゼンして。ノルマはありませんが、メンバー同士で競争し合っていて、一人100万・200万と成果を上げていますよ」

 

こういった経営努力に苦心するのも、ひとえに規模の拡大の為だ。

 

 

「実は新歓の時、新一年生の入会は500人ほどにもなるんです。4月から7月まで、幹部メンバーは必死で勧誘しますから。去年も説明会を26回もしました。そうして集めたメンバーですが、徐々に減って現在は二年生が120人、三年生は30人ほど。厳選された、と言えば聞こえはいいのですが、やはり辞めていく人が多いのが現実です。

……私はAGESTOCKを日本一の学生団体にしたい。新入生が憧れ、一番入りたいと思えるような団体にしたい。そのためには、自分から頑張りたいという動機を持ったメンバーが集まっている、それを一人一人が誇りに思っているサークルにしたい」

 

 

「それは、学生という枠組みに囚われたくない、ということでもあります」と晒名代表は続ける。

 

「学生サークル、というだけで周囲からナメられている、と感じることがあります。だから有名企業でも不可能な大規模イベントをドンドン成功させて、AGESTOCKだからこそできた、という実績を見せつけたい。

私たちの名前を一つのブランドとして示し、『AGESTOCKがやるイベントなら行こう』と思ってもらえるような。そうすれば、AGESTOCKという名前だけで学生は集まり『AGESTOCKに入っている』ことが学生のブランドとなる。それが私の考える目標です」

 

学生サークルという枠を超えた、唯一の団体になりたい。

晒名代表は、AGESTOCKの行く末について、そう話してくれた。

 

 

ワクワクを感じたら即実行

「入会してすぐ、ピエール中野さんを招いた2016年の早稲田祭の時、私は企画責任者のような立場で参加していましたが、イベントをどう成功させるか、必死で考えました。観客のテンションや感情をどう誘導するか。そして勿論ゲストにも楽しんでもらいたい、と。

結果としてはピエール中野さんは自分からドンドン話を進めてくれる人だったので、MCに苦労することはなかったのですが、そういう今までに自分が経験したことのなかった運営側の苦労や、考えを知ることができたのは大きな経験でした」

 

そうやって自分たちでゼロから企画を立ち上げ、そしてやり遂げることがこの上なく楽しい、と晒名代表は語る。

 

「皆で力を合わせ、一人ではできなかった大きなことを達成していく体験を大学三年間でするのは、引退後実社会に出て行った時の貴重な成功の記憶にもなります。実際にOBにはテレビ関係、広告企業や起業した人も多くいます」

 

ではAGESTOCKと関係を持つことは、企業側にはどのようなメリットがあるのだろうか?

 

「企業のビジネスプランのお手伝いができます。学生と企業が共同で何かをするという機会はそれほど多くはない。学生が減り続け、人材を集めることが年々厳しくなっている現在において学生と、しかも大勢の学生と接触する機会を得られるというのは大きなメリットになると思います。

また、こういう意図を持ったサークルですので学生たちも意識の高いメンバーが揃っている」

 

最後に、メンバーどう利用してもらいたいか、と伺った。

 

「メンバーにはいつも、ワクワクすることに遠慮するな、と言っています。短い学生の期間ですから、ワクワクを感じたら即実行する。皆、文化祭の前夜に学校に残ってワクワクしながら準備に熱中していた、そんな思い出を持っていると思います。その時の思いをいつまでも持ち続けて欲しい。

私自身、代表になった理由はただやりたかったから。イベント企画も広報も営業もフリーペーパー作りも全てやってみたい。だから代表になりました。自分がやりたいことを実現できる場所。それがAGESTOCKですから」

 

だから、今が一番楽しいんです、と話す晒名代表。

高校三年生の時、悔しさに唇を噛み締めた青年が今、夢を実現する舞台を手に入れて羽ばたこうとしている。

そして、それは同じ気持ちを胸に潜ませている全ての大学生にも用意されている。

 

 

晒名駿(さらしな・しゅん)…1997年、愛知県尾張旭市生まれ。名古屋大学教育学部附属高校を卒業後、明治大学商学部に入学。現在も在学中。AGESTOCK2018実行委員会代表。