TRANBI(トランビ)は、株式会社アストラッドが運営する、累計2,600件(2107年11月現在)のマッチングを行う国内有数のM&Aのマッチングサイトだ。

 

代表の高橋 聡氏は、長野県の老舗工業資材メーカーを経営する課程で、M&Aによる自社の企業成長を検討する中、日本の中小企業が後継者不足でどんどん廃業しているという事実を知った。そこでM&Aで第三者に企業を買ってもらい、事業承継による廃業から中小企業を救いたいという想いでM&Aマッチングサービスを開始。2011年以降、順調に実績を積み上げてきた。

 

M&Aの活性化のためには、出口側に立つ買い手の拡大が重要だ。買い手側は、自社の成長や、新規事業のために役立つ、魅力的な事業シーズがあればさらに増えていく。スタートアップが保有する新しい技術やノウハウ、新しいビジネスモデルなど、買い手企業は中小企業のM&Aだけでなく、スタートアップなど新しい成長点を幅広い視点で求めているが分かったという。

 

そこでトランビは今回、米国スタートアップに投資できるサービスを開始した。これにより、日本企業はシリコンバレー中心に活性化する米国スタートアップ企業の事業シーズを取り込むことで新たな事業展開の可能性を生み出すことができる。

 

ではなぜ、今、米国のスタートアップなのか? 株式会社アストラッドのフォン氏に聞いた。

 

 

スタートアップを次々に生み出す米国の勢い

TRANBI 馮暁渓さん

フォン氏は指摘する。

「なぜ我々がスタートアップで米国を中心に取り組み始めたのかという点についてですが、優良シーズは米国に非常に多くあるからです。

シリコンバレーには新しいアイデアや面白い会社が湧きだしてくるような厚い土壌があります。日本では、ほぼ出会えないIoTなどの最先端の企業が次々に生まれていますね」。

 

数字的に言っても、米国のスタートアップと日本のスタートアップの環境は圧倒的に差がついている。米国では毎月約60万社の新規企業が立ち上がっているのに対し、日本では毎月1万社にも満たない。その中で、米国の起業に関しては、40%以上はAIなど最先端の技術の企業だという。

 

シリコンバレーのスタートアップを生み出す場の雰囲気は次のようなものだ。夕方になると、投資家が三々五々ヤードハウスに集まってくる。その数は大体100人くらいだ。最初の30分くらい皆で近況のネットワーキング(情報交換)をする。その後席について食事をしながら、スタートアップ起業家が1人15分くらい、パワーポイントを使いながらプレゼンを実施していく。ここまでは、日本との際立った差はないように見える。

 

日米の違いについてフォン氏は解説する。

 

「実は、彼ら投資家は皆エンジェル団体に所属するプロの経営者で投資が即決できる人達です。参加者には紙が渡されていて、その企業の評価を書いていくのです。最後に、あなたはここに投資をしますかという質問があり。Yes、Noのどちらかを記入します。Yesの人は、皆、箱に紙を入れる。すると後から連絡がきて、当該企業に対する出資のデューデリ(=投資審査)に入ります。あなたはデューデリに一緒に入って、ここの調査を一緒にしてくれますか?という質問が来て、100人中、10人くらい手を挙げると、次の段階に行こうとなる。一人あたり5万ドル、10人まとめて最低50万ドルくらいを1社に出資します。

 

このときエンジェル一人ででスタートアップをデューデリするのは非常に大変なのですが、実態がよくわからないスタートアップでも、エンジェル団体に所属するプロの経営者が100人いれば、様々な角度から、役割分担してやれるので、チームとして非常に効率良く動けるというわけです。案件は月50件の中から事前審査を経て、月3件づつ投資検討の俎上に上がってくるようになっており、選ばれた企業のみがプレゼンすることができるのです」。

 

「私が参加した時のプレゼン企業は、1社がメディカルで、細胞を壊さずに、試験ができる技術をもっている会社。2社目が、子ども向け送迎配車サービス。

米国では学校の送り迎えは親がやるのですが、それができない人たち向けに子どもを学校から送り迎えするウーバーのようなものです。3社目がセールスフォースとかクラウドを複数全部つなぐことができるERPパッケージを開発した会社。その後、短期間のうちに3社は全部出資が決まりましたね」。

 

スクリーニングされたその3件はいい月もあれば、悪い月もある。しかし、良いとなればみんなで一緒にやろうよという、プロのコミュニティが実際にスタートアップを支援するシステムとなっているから、成長率と、成功確率が格段と高くなるのだ。

 

 

トランビが米国スタートアップ投資に取り組む真の狙いは何か?

表面的には見えてこないが、米国において、これだけ起業活動が活発な最大の理由が、エグジット=出口の仕組みだ。

 

フォン氏は指摘する。

「米国の場合、会社を作ってエグジット方法は3種類ある。それらはIPOと廃業とM&Aで、実際9割がM&Aでのエグジットです。ところが日本ではM&Aは、ほぼ機能していないのですね。IPOか廃業。だからほとんど廃業になる。

日本でも途中でM&Aでエグジットするっていう選択肢を持たせてあげないと、当然 挑戦する人が出てこない。廃業が多いということはみんなが負けているわけですからね。9割負けているのを見れば、誰も挑戦しない。だからしっかりした出口があることが非常に重要なのです」。

 

 

つまり、M&Aの出口としての効用は非常に高いのだ。そういった、単なる個別の売り買いを超えたM&Aの大きな意義を整理すると3つの観点が考えられる。

まず一つは、後継者難で事業承継を考えている企業が、現状に甘んじているだけではなく、新しい事業シーズに取り込み企業価値を上げ、より高く売却できるようにする。

二つ目は、出口があることによって、新規起業への参入が活性化する。これにより、事業承継とともに社会問題である日本の創業が圧倒的に少ないという問題解決に資する。

三つ目は、一度スタートアップした企業が、M&Aで事業を売却し、今度は買い手となって次のスタートアップの投資に向かう。この結果スタートアップマネーの資金循環が起り、スタートアップの質が上がり、量も増える。

 

 

このように出口の環境整備により、スタートアップから事業承継までのあらゆる段階で、企業が出口の門を通過するごとに、日本企業の活力を取り戻すことができるのだ。この出口の機能をフル活用した、日本の中小企業の活性化こそがトランビの最終的なゴールだ。

 

その際には、出口の活性化のために出口側に立つ買い手企業を増やす活動も重要になる。実際にトランビの利用者5,000ユーザーの8割は買い手だ。買い手にとってマッチングの場をより魅力的なものにするためには、魅力的な売り案件や投資案件が必要なのだ。そういった出口の形成プロセスの一つに今回の米国スタートアップとのマッチングサービスが位置づけられる。

 

トランビでは、今後、マッチングの場だけでなく、支援コミュニティの形成も同時に必要となると見ている。先述した米国のスタートアップ投資コミュニティは、自らスタートアップ企業を売却し、自身がエンジェルとなっていく課程で生まれて来た起業経験のあるプロ集団なのだ。彼らはスタートアップに、お金だけでなく、知見とノウハウを提供し短期間の成長を実現させていく。

つまり、日本でもM&Aのマッチングの仕組みの充実と、スタートアップ支援コミュニティが両方とも必要となってくる。トランビの今回の米国スタートアップの取り込みは、買い手を増やすための魅力的な案件発掘による出口の充実と、M&Aマッチングシステムとコミュニティを上手く連結した起業支援システムを日本でも定着させるための前哨戦に他ならない。

 

 

米国スタートアップと連携するには?

ここで冷静に考えてみると、中小企業やベンチャー企業が、海外と連携するといっても、実際に見てみないとわからない。言語や、文化の違いもあり、いきなり進出するのはハードルが高い。そこで、まずはすでに現地にいる日本人スタッフを介して事業をすすめるのがより堅実であろう。現地で直接企業とコンタクトをとってもらい、実際の状況を教えてもらい、やり方を全部サポートしてもらえれば上手くいく可能性が高まる。

 

フォン氏は指摘する。

「日本からの投資を考えるとやはり現地での人脈がポイントだ。当社の場合、大手上場会社の取締役を務めたネットワークのある人材をスタッフとして、現地でのネットワークを拡大させている。要は前職で培った人脈が今生きていて、そこからスタートアップ企業のネットワークを創っている。全て本人が直接企業に会って、話を聞いて、どういう状況なのか、会社や技術の内容を確認して、成長性がある会社、可能性がある会社を精査している。

また、スタートアップとの交渉も代理人としてサポートすることも行っています。」。

 

「現在探索中の分野は、IoT、AI、ヘルスケアの分野、ビックデータとかです。今のトランビへの掲載ペースは月3件。うち2件が先端分野、もう1件は飲食とか別分野で選択しています」。

 

 

具体的にどのような連携が考えられるのか

連携の方法は、シーズ情報の収集、候補の絞り込み、相手とのコンタクト、案件の審査ということになるが、このプロセスをどのように進めていくのだろうか。もう少し、イメージしやすいように具体的な例をフォン氏に解説してもらった。

 

「例えば、生産ラインにIoTのタグをつけて、そのデータを収集して、検知をするというAIシステムを開発している企業があります。こちらは、既にインテルとかデルとか大手から高い評価をいただいております。で、日本にも進出したくて、パートナーを探しているという感じですね」。

 

「基本はまず出資をするのが始まりです。そのうえでビジネスパートナーシップを進めていくことになりますね。ただ、向こうもスタートアップなので、こうじゃなきゃいけないというのは決まってない。相手もまず日本のことをよく知らないし、パートナーの候補もいないし、どうすればいいか分からない中で、一緒に議論していきます。その上で、具体的にどう組んでいくかを相対で調整、交渉していく、ほとんど、全部そうです。実際には、上場企業含めてかなり反響は多いですね」。

 

トランビはM&Aマッチングサイトには、違いないが、国内外、あらゆる成長ステージでの、売りと買い。そして資本提携と業務提携といった形で、様々な活用の仕方があるのだ。

 

「トランビには、いろんな可能性があります。面白い会社とか、新しい技術、アイディアとかどんどん出てくるという形になっています。これから日本の経済をもっと元気にさせるために、新しい事業とか新しい展開を増やさないといけないですね。

その方法としては、自分からゼロからやっていくだけではなくて、今の既存している会社と組み合わせてシナジーを生み出して、新しい可能性を生み出していくことは十分ある。それをご理解いただいて、米国の企業と連携を組んでやっていけば、失敗のリスクはもっと低くできるし、新たな展開ができる。

もちろん企業様の個別のご要望には応じています。どういった業種、どういった会社に興味があるか、こういう業種のものが欲しい、そういったものがあれば、どんどん事務局に気軽に相談してほしいと思います」。

 

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【プロフィール】

馮 暁渓(フォン シャオシー) ……1988年04生まれ

中国河北省石家荘市出身
石家荘市第二中学高等部卒業
信州大学工学部情報工学科卒業

2013年 アスク工業株式会社入社
新規事業開発室 事業開発責任者として、10件以上の事業開発に従事。トランビの立ち上げに参画。 2016年トランビの分社化に伴い、株式会社アストラッドに転籍。

資格、教育
2008年 日本語能力試験N1
2012年 信州大学留学生会会長
2012年 三菱商事奨学金受賞


2000年 中国河北省 数学オリンピック銅賞
2001年 中国河北省 数学オリンピック銀賞
2001年 中国全国  数学オリンピック銅賞

 

TRANBI (トランビ)▶http://www.tranbi.com