ブラック企業と噂の秋山鉄工の地元の評判と秋山氏インタビュー
ブラック企業と噂の秋山鉄工の地元の評判と秋山氏インタビュー
◆文責:加藤俊
10月27日の夜頃から、山形県鶴岡市の真空容器メーカー「秋山鉄工株式会社」がネット上でブラック企業だと祭り上げられた一連の騒動をご存知だろうか。採用ページに書かれた「入社後一年間は授業料をいただきます」などの文言が挑発的と受け止められ、Twitterなどで「ワタミ超えのブラック企業」と糾弾され、ネット上に祭り上げられた件である。
この件に絡んで小誌HP上でも、秋山鉄工の過去記事が3本公開(2013年6月号、11月号、2014年9月号)していたこともあり、多くの方に記事を読んで頂いた。騒動のあった3日間だけで17万PV到達(いつもは月間7万PV程度)。終わってみれば、一ヶ月間で25万PVとなった。秋山鉄工さんと読んで頂いたネット民の輩に大感謝である。
今回、秋山鉄工はSNS上の書き込みによって爆速で全国に知られることとなったが、その多くは今なお誤解されて伝わっている。そこで、炎上騒ぎが地元山形県庄内の経済界でどう受け止められているのか、また秋山鉄工の地元の評判を、実際に地元企業の方々にお聞きし集めてきた。
まず、今回の炎上の経緯は地元でどう理解されているのか
株式会社茜谷 (建設会社兼BigLife21庄内局長)茜谷聡社長「今回の経緯はね、秋山鉄工が先月2回ぐらい地元のテレビにでたんですよ。ソレを見て、なんかコイツ変わっているなと思った人がいたんじゃないかな。で、秋山鉄工のHP見たら、個性が爆発したHPで『こりゃ、とんでもねぇ!ブラック企業だ』って息巻いたんでしょう。それで、ネットにこんな企業があるぞって投稿したんだと思いますよ」
秋山鉄工さんは今回の件をどう思っているのか
茜谷氏:「かえって、一生に二度とない経験ができて喜んでいるでしょ。田舎の中小企業ですから、どれだけ変わり者でも、Yahoo!のトップページに乗ることなんて有り得ないですからね。先日お会いした時も、さっそく『ブラック企業の秋山です!』って自己紹介していたくらだし(笑い)」
秋山鉄工はブラック企業なのか
株式会社飯塚製作所(切削加工)佐藤正和取締役「秋山鉄工さんのことは尊敬しています。昔から、地域の良い手本ですよ。色々な勉強会でお話を聞かせて頂いていますが、あの人(秋山社長)の話はハズレがない。私はその炎上の経緯を詳しく知らないんだけど、秋山社長自ら言い出したんでしょ? あの人はそのぐらいブラックジョークの好きな人ですから(笑い)」
鳥海やわた観光株式会社(宿泊・観光)和田邦雄社長「秋山さんは凄い発明家ですよね、庄内のパイオニアだと思います。どういう経緯で炎上したのか詳しくないのですが、私は素晴らしい方だと思っています。秋山さんの伝えたいことは、要は若者たちに社会に出るには事前にトレーニングが必要だろ、ということですよね」
株式会社永田プロダクツ(自動車中古部品販売)永田則男社長「秋山鉄工さんのお名前は存じていますけど、私は直接お会いしたこと無いので。ブラック企業として叩かれているのですか? そんな企業ではないと思いますけど」
今回の炎上をどう思っているのか
東北東ソー化学株式会社(化学メーカー)吉川哲央社長「要は、採用ページの言葉の表現が、『今』の時代に合っていないということでしょう」
酒田エス・エー・エス株式会社(ゲーム制作)佐藤久志部長「今回の一件、正直に申して感銘を受けました。確かにHPに書かれていることは、指摘されるようにかなり厳しいですが、私はあれは、ビジネスとして至極真っ当な事を仰っていると思います。弊社でも、一定数の人を採用しますが、やはり入社した後に、ビジネスの厳しさを教えなくてはならない。そういう意味で秋山鉄工さんが採用前の段階で、ああいうページを作る気持ちは共感できますし、否寧ろ、ウチでもあのぐらい挑戦的なメッセージを打ち出して、求人を篩にかけてもいいのでは、とさえ思った次第です。弊社に就職したいならば、こうであるべきだ、という企業の哲学は発信することで、有望な人材を見分けることができるのであれば、それは有効な手立てですよね」
最後に、秋山さんにお会いしてきた。
―今回大変だったのではないですか?
秋山社長「匿名で書かれたものを相手にする余裕はないですよ。とにかく、実名の人がいないんですから。あまりにも多くの方がいろいろなことをしゃべっているので、全部を読めるはずもなく。ただ、かなり厳しい意見を頂戴しました。市民オンブズマンを名乗る方から、弊社の取り組みの動画を見て、『貴方のやっていることは偽善だ』とも叩かれましたし。後、鶴岡市民なんて名乗る方もいたな。ネットでメッセージ寄越すのでなく、近いんだから、直接来ればいいのに(笑い)
大多数は取るに足らないものでしたが、ただ、なかには真面目なことを書いていらっしゃる方もいる。それでも、弊社のHPのサーバーが落ちる程の勢いの中で、私が何を言ってもかえって火に油を注ぐだけになると思って、お返事は返しませんでしたが」
―今回、秋山さんのHPの文言って、多くの経営者が常日頃からそうだよ、あたりまえだよと思っていることを実際に明記していただけですよね。秋山鉄工は「経営者の代弁者」だという方もいらっしゃいました。
秋山氏「そう言っていただくのは有難いですが、でも実際に実名で援護してくれる人はあまりいないなぁ。私が地域の誰かが事実に反したバッシングを受けた場合、実名で援護するのだけれど……」
―ブラック企業という批判に対しては?
秋山氏「今回ブラック企業と言われましたが、ネット上で少なからずウチの記事が読めるので、誤解を解いてくださる方が多かったんです。助かりました。特に、BigLife21様と遠藤功様(早稲田大学ビジネススクール教授)の『現場千本ノック』というブログを読んでくださって、秋山鉄工はブラックではないとご理解頂ける方が多くて、本当に助かりました」
―秋山鉄工をブラック企業と思っている方にメッセージを
秋山氏「どうせなら、秋山鉄工は鉄工場ですから、黒鉄(くろがね)を扱いますので、ブラック企業じゃなくて、Black Ironとでも読んで頂きたい(笑い)」
※
秋山鉄工さんはブラック企業なんて言葉で括れる企業では断じて無い。キーテクノロジーとして確かな溶接技術を持ち、真空容器・装置・部品の製作と人間性教育に磨きをかける地域を代表する中堅・中小企業である。私財を投じて子供たちのための私設公民館を建て、地域のため、日本のために、社会貢献を行っている本当に素晴らしい企業だ。
様々な地域で色々な企業を見てきた中でも、ここほど尖った個性を持つ企業はあまりない。それがHPで挑戦的な言葉となって、一部の方から、「挑発的」と受け取られたのだろう。ただ、製造業に於ける中小企業の魅力って、独自技術を追求する過程で形成されるその個性にこそあって、その個性の在り方を否定するって、今回は情報の加工のされ方のテキトウさを思う。ま、小誌の記事が諸事情有り、魅力をうまく書ききれているわけではないので、多くの方の誤解を解くことができなかった。これは猛省。
この炎上を機に、秋山鉄工さんの強烈な個性が全国区的な知名度になり、その姿勢に惚れるファンが増え、日本再生を真剣に考える企業が増えることを願ってやまない。