株式会社翔栄クリエイトの創業者にして現代表取締役・宇佐神慎氏の企業物語。1997年に、勤務先の会社の負債を整理するために会社を設立。2000年時点では2億6千万円にもなった負債を約4年で完済の目処をつけ、現在は8分野、年商約41億円を上げる。今なお挑戦を続ける、その宇佐神社長が最も大切にしてきたものとはー。 (前編はこちら

Ⅲ. 理念を共有できる人材の採用・評価方法

一般的な企業では、従業員はプロセスよりどのような結果を出したかで評価されるのが普通だ。

売り上げを伸ばせば褒められこそすれ叱られることはまずない。逆に結果が出なかった時に高評価が付くこともない。

自らの成長を求める人材が多く集まり、社内には自由な雰囲気と活気があふれている

しかし先に見てきた通り、3つの企業理念を根幹とする株式会社翔栄クリエイトにおいては、必ずしもそうとは限らない。

なぜなら、結果よりも動機やプロセスが重要視されるからで、それは一般的な企業との明確な違いとなっている。

例えば、同社の営業マンにはノルマがない。

ノルマは言ってみれば、自社の売り上げを確保するために設定するものだ。ノルマを課すと、営業マンはその数字を達成することが目標になり、本気で顧客のことを考えることが難しくなる。それでは本末転倒だから、同社ではノルマは設けない。

代わりに社員が求められるのは、本気で顧客のために行動することだ。

 

上司が部下を叱る理由も一般企業とは違っており、その対象となるのはほぼ一貫してお客様に不誠実な対応が見られた時や、顧客より自身や会社の保身に回っている言動があった時。

逆に、心からお客さんのことを思って行動したのなら、たとえ結果が失敗に終わっても叱られることはなく、むしろ行動せずに失敗もしない方が叱られる。

また、売り上げの数字が思うように上がっていなかったとしても、宇佐神氏は「どうなっている?」と聞きこそすれ怒ることはないという。

 

「きちんとお客さんのためにやっていれば、数字は勝手に上がっていくものだから、上がっていないのはどこかに問題があるはず。そこで必要なのは、お客さんに商品・サービスの真の価値を分かってもらうにはどうすればいいか、対策を考えることです。

本気で相手のためにやれば、商品・サービスもよくなるし、本当に必要な人に届くことで、結果は自ずと付いてくる。それを徹底してやるのがうちですからね」

これらは、翔栄クリエイトの大きな特徴だ。

 

根底を押さえれば自由度は高い

とはいえ、社員の中には他社とかなり違うこのような同社のやり方に戸惑いを感じる人もいる。例えばある事業部長は最初の2、3年は「とんでもない会社に入ってしまった」と思っていたそうだ。その原因は、指示の出し方・受け止め方のズレにあったようだ。

「僕は〝こうしろ〟と言うのは目標やゴールを示していたんですが、彼はやり方を指示されているんだと思っていたようですね。だから、〝こうしろって言ったじゃないですか、社長〟という行き違いが起きてしまった。

普通の社長はやり方を指示するかもしれないけれど、僕は自分が指示されるのが嫌だし、やり方は現場の人間が一番よく知っていると思うのでやり方は極力指示しない。〝ちゃんとお客さんが満足するようにやっておけ。そのゴールさえ押さえればやり方は自分で考えればいい〟というわけです。

最適なやり方が何かなんて、現場にいない社長が分かるわけないですからね。そんなわけで、最初、彼は戸惑っていたようですが、何度もやり取りを繰り返すうちに、本質さえ掴めば自由にやっていいことに気がついて、今では水を得た魚のように活躍し、全体を見る立場を務めています。根本さえ押さえておけば、うちの会社はとても自由。自分で決定してどんどん実行できるので、責任を取る気持ちがある人間は楽しいようです」

 

ほしいのは「人としての成長」を望む人材

現在、宇佐神氏が目標としているのは「1人ひとりが心から顧客のために行動できる企業」だ。そのためには、社員全員が企業理念を共有し、同じ方向に向かって進んでいくことが不可欠だ。そんな人材を迎え入れ、育てるために、同社は採用や人事評価についてもさまざまな独自の工夫をしている。

例えば、採用については、まず第一に見るのは、応募者が「成長したい」と思っているかどうかだ。また、「自分はまだまだだ」という自覚があるかどうかも重要だ。そのまま成長の伸びしろに直結するからだ。

だが実際には、面接の限られた時間内で人を見極めるのはほぼ不可能に近い。そこで、同社では最初は全員を契約社員として採用し、半年をかけてお互いに見極める方式を導入。

また給与は採用時には低く設定し、後にやればやるほど急ピッチで上がっていく形態をとることで、本当に同社の方針を分かった上で来たい人だけを採用するようにしている。

 

この最初の半年間で、企業理念に沿って行動しようとしているかを確認し、正社員とする。企業理念に同意出来なければお互いが不幸になるからだ。夫婦でも価値観が違う中で無理して一緒に居続ければ良い結果を生まないのと同じだ。ただし、適性があまり見られない場合でも、6カ月終わった段階で同社の方から契約を打ち切ることはほとんどなく、他部署への転籍を検討したり、契約社員期間を更新する中で、適性を模索するのが基本だ。

人事評価については、「人を定量的に評価することなどできない」という基本的考えの基に行っている。しかし企業理念や20の行動指針を本当に理解して行っているかどうかは重要で、これが自然に行動出来るよう身についているかは重要な評価対象となる。

また、マネジメント能力・スペシャリストとしての能力も問われる。企業理念や行動指針、そして業務上スキルについての質問表に、社員自身がまずは6段階評価で自己採点を行い、次に事業部長との個人面談を行う。ここで、事業部長は理念や行動指針・スキルについて現状の問題点を個々人と確認し、如何にすれば改善されるかの個人目標を明確にする。

この自分が納得して作った目標の達成が評価対象となる。そして最後に、宇佐神氏が客観的な立場から確認する。

この自分が納得して作った目標の達成が評価対象となり、その評価のポイントは、如何に個々人が自分の人格的・組織的課題を意識し、改善しようと努めたかとなる。

つまり、自分の課題を自覚して、仲間や顧客のために自分を如何に変えようとしたかが重要なのである。

段差を活かした斬新なデザインの新オフィス。同社ではオフィス空間を「第5の経営資源」であると捉え、オフィスデザインが企業の業績に直結すると考えている

人は心の赴くままに行動すれば、他人よりも自分、内面よりも外面を気にしてしまうが、如何にこれを自覚した上で、「良心」に従った行動が取れるよう、「成長」しようとしているかである。

だから、評価の数字が高ければいいというわけではないし、逆に低ければいいというわけでもない。つまり、人と人とを比べる相対評価ではなく、自分自身の課題を自覚して、如何に自分を成長させるかだ。自分は出来ていないと分かっている人は、自分を正そうとして、自然と成長していく。同社は、そんな「自分に謙虚」で成長したいと望む人材を高く評価する。

 

社長になれる人材が育ってほしい

同社のこれからの課題として今、宇佐神氏が求めているのは「まず、一事業を信頼して任せられる、後々社長になれる人材」だ。求められているのは、もちろん同社の3つの企業理念を体現する人材だ。

「一般的には、頭が良くて、利益をちゃんと出してくる人を社長に抜擢することが多いと思います。しかしうちでは、『有能で、神を恐れ(お天道様が全てを見ていることを知って)、誠実で、公平公正な人』に任せたい。

これは、モーセがイスラエルの民の上に長を立てたときの基準で、聖書にはこう書いてある。『モーセは、すべての民の内から有能な人で、神を恐れ、誠実で、不義の利を憎む人を選び、それを民の上に立てて、千人の長、百人の長、五十人の長、十人の長とした』。

このような、まともなことを正直にやって、結果は天に任せられる腹の据わった愛のある人が育つことを期待しています。自分が社長でなく、最終責任をとらなくていいうちはそれができる人は多いんです。けれど、自分が代表者になり、会社を潰してはいけないという責任を一身に背負った時、その責任に負けずに、動機やプロセスを重視して、本当に相手のことを思いやるというまともなことを続けられるか。それを自然と出来る人が育ってくるのを期待しているんです」

 

翔栄クリエイトにおいて、組織のトップに必要とされる能力「有能さ」は、企業理念に集約される通り、人としてのあり方や、人を導くマネジメント能力、人を見抜く洞察力、数字を読み解く力と多岐に及ぶ。

だが最も根底にあるのは、愛の動機で、素の自分のまま、捨て身で人のために一生懸命やれる人柄だ。

数年後か十数年後、今その理念に共感して入社した社員の中からも、一事業を任せられ、社長になれる存在がきっと育ってくることだろう。

 

宇佐神 慎(うさみ・まこと)氏

1959年8月2日、宮城県仙台市生まれ。

茨城大学工学部工業化学科を3年次に中退し、茨城キリスト教大学3年へ編入。

卒業後、更に心の成長を求めて東京基督教短期大学(現:東京基督教大学)2年へ編入。

その後、社会で学びを積むべく1987年に某通信機会社へ入社。1997年8月に株式会社翔栄システムを設立し、同社の代表と、元の会社の営業部長を兼職。

2000年5月以降は同社代表取締役一本となる。

2005年1月の称号変更に伴い、株式会社翔栄クリエイト代表取締役に就任。現職。

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