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人工衛星打ち上げプロジェクト

全国工業高等学校長協会 夢を飛ばせ!工業高校生の手造り人工衛星!

◆取材:加藤俊

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全国工業高校長協会 人工衛星躯体12号機

公益社団法人 全国工業高等学校長協会
事務局長/小暮守雄氏
事務局次長/瀧上文雄氏
付属工業教育研究所/萩原和夫氏

人々の記憶に新しい人工衛星『まいど1号』。東大阪の中小企業が、その持てる技術を結集して打ち上げたそれは大いに世間をにぎわせた。しかし今、それ以上に衆目を集めそうな人工衛星プロジェクトが進行しているのをご存じだろうか。

 

驚くなかれ。担い手は全国の工業高校生。彼等高校生の力を結集して人工衛星を打ち上げようというのだ。プロジェクトを統括する公益社団法人全国工業高等学校長協会にお話をうかがった。

 

そもそもは全国工業高等学校長協会創立100周年記念事業の一環。工業高校生が夢を持てるプロジェクトが相応しいということで、人工衛星・相乗り小型副衛星(分類名)を打ち上げようとなった。

 

具体的には、小型人工衛星(20㎝立方程度)H―ⅡAロケットなどに乗せて打ち上げる。地球の軌道上(高度約600㎞)を周回させ、地球画像送信や大気環境観測などの可能性を内包した壮大な構想で、未だ、高等学校ではどこも実現できていない。JAXA(宇宙航空研究開発機構)など関係機関の支援と会員校の協力の下、創立100周年(平成31年)までの達成を目指している。

 

──人口衛星打ち上げプロジェクトはいつ始まったのですか。

 

人工衛星_瀧上次長

事務局次長 瀧上文雄氏(以下 瀧上) 平成21年、当時の理事長だった佐藤義雄氏、元は文科省の教科調査官で山形工業高校の校長先生ですが、その方が100周年を目指して立ち上げたものです。初代委員長は私が務めました。

 

人工衛星_木暮事務局長

事務局長 木暮守雄氏(以下 木暮) 平成21年の総会で了承され、準備委員会を設けて具体的な調査を開始しました。航空宇宙工学の権威、東大の中須賀教授のところに相談に伺ったりしつつ、今に至っております。

 

人工衛星_萩原研究員

付属工業教育研究所 萩原和夫氏(以下 萩原) 現状、各学校での活動は授業でも部活動でもない自主参加の形態が多いようです。ただ、参加している生徒のポテンシャルの高さは皆さんの認めるところで、ご教授いただいている先生方も驚いていらっしゃいますね。

 

──その目的とは何でしょうか。

 

木暮 工業高校生でも人工衛星を打ち上げられる、という自信をつけてもらうことにつきます。宇宙を端緒として様々なジャンルに向けた広い視野を持ってもらいたい。『夢と自信』を生徒に与えたいのです。

 

瀧上 生徒を元気づけるには、注目されている宇宙産業がうってつけだろうと考えました。『まいど1号』に触発されたところはあります。

 

──大学などでは何校か既に人工衛星を打ち上げているところがありますが、工業高校生が打ち上げるというメッセージ性以外で意味するところは何なのでしょうか。

 

DSC_0432

瀧上 この人工衛星プロジェクトの意味合いは、大学が打ち上げる人工衛星と根本的に違います。というのも、大学は多くの場合、人工衛星の躯体までは自分達で作りません。ほとんどを外部に発注します。
でも、本協会では出来る限り〝自作すること〟を心掛けています。モノづくりの担い手である工業高校生が行うプロジェクトなのですから、自分達で作れるところは作ってしまおうと。具体的には、躯体からWebカメラ、プログラムに至るまで、生徒にモノづくりを体験させる点が違うのです。

 

 

人工衛星_躯体試作2号機02萩原 プロジェクトで製作していく過程そのものが、〝学び〟の場となるのです。ここに最大の意義があります。自分なりの努力でいろいろなことに関与できますから。無線を受けて通信することでも、感動があるはずですし、大学生に交じって、高名な先生に教えていただくという体験が、学習意欲を喚起するはずです。

 

──実際の活動や成果、役割分担はどうなっていますか。

 

瀧上 具体的な分担についてはまだ決まっていません。今は各学校の先生が集まって委員会を開いている段階。そこで毎年の課題を決めていくのですが、今年は東京理科大学の木村真一教授の研究室に全国の工業高校生に集まってもらって、実際にWebカメラを自作し、プログラムを作成しました。

 

 

DSC_0419

萩原 同時に無線の実験も行っています。宇宙空間に人工衛星を飛ばせば、通信は全て無線で行われます。その送受信の電波実験を、昨年は富士山で、今年は木曽駒が岳で行いました。

 

なんといっても、本協会の強みは北海道から沖縄まで工業高校という拠点があること。その中で無線をやっている学校がたくさんありますから、日本の各地からの協力が得られ、交信実験も広範囲で行えます。現在、38校が参加してくれていますが、これからも設備を整えて参加してくれる高校が増えてくると思います。

 

瀧上 我々はアマチュア無線帯の電波を使用しているのですが、これは乗せられるデータ量が少ないです。しかし、その電波を受ける場所として工業高校なら全国にたくさんのアンテナがある。ただ、現状では乗り越えなければならない技術的な問題も多々ある段階です。

 

木暮 実際に技術的な問題をクリアするために、様々な専門家にご協力はいただいています。東大、理科大の先生方や日本宇宙フォーラムなどにもアドバイスをいただきながら、プロジェクトを進めている次第です。

 

瀧上 日本宇宙フォーラムも共催している『衛星設計コンテスト』で今年、長野工業高校が宇宙科学振興会賞をいただきました。このコンテストは非常に権威あるもので、そこで評価していただいたのは凄いことだと思いますね。

 

萩原 テーマは『全国の高校生でつくる小型人工衛星システム』。生徒たちの自主的な研究だったのですが、このプロジェクトの講習会に参加したことがきっかけだったそうです。

 

木暮 我々のプロジェクトが、生徒の向学心に大いに役立った証左を見るのはうれしい限りです。受賞した生徒も自信になったでしょうし、喜びも非常に大きかったのではないでしょうか。

 

──現状の問題点は何でしょう。

 

瀧上 プロジェクトを牽引するプロジェクトリーダーがいないことですね。大学や高専などのように単体で衛星を作っているところと違って、全国の工業高校が参加していますから。

 

木暮 いつでもパッと簡単に集まるってわけにいきませんからね。それぞれの学校はやる気満々なんですが。それが悩みのタネです。

 

萩原 月1回集まるのがやっとなところですが、すでに躯体は2機試作を終えていますので、今後は担当する部門ごとに参加校をグループ化して、集まりやすくしていくことを考えています。

 

人工衛星_躯体試作1号機 人工衛星_躯体試作2号機

写真左:躯体1号機/写真右:躯体2号機

 

──高校生のことですから、三年で卒業してしまいますが、参加した生徒の進路はどうなっていますか。

 

瀧上 まだそこまで追いかけていませんが、将来的には、このプロジェクトが生徒の将来にどう役立ったのかを検証しなければいけないと思っています。意欲の高い生徒たちが、卒業後どんな進路でどんな活躍をしているのか、我々としても非常に期待しています。

 

 

DSC_0436木暮 本協会ではこのプロジェクト以外にも様々な取り組みを行っています。工業高校の生徒は就職率も高いですし、普通校に比べれば離職率は低いという結果が出ています。

 

それというのも工業高校では、生徒の入学の時点から社会に出ることが大前提の教育を行っています。工業高校の実習の風景を最初から見ていただくとわかるのですが、生産現場と同じような環境を用意しています。これは設備だけの話ではありません。

 

ちゃんと始業の際には準備運動や点呼・点検をとってから作業をはじめています。実際の工場で朝礼や運動をするのと同じ、その形を入学した当初から行いますから、三年間続けていくと子供の意識水準も否応でも変わります。そのうえでインターンシップに行くので、効果が生まれるのです。

 

瀧上 工業高校の生徒は、もともとモノづくりが好きで入ってくる子が多く、熱心に学んでいます。ただ、昔のように専門高校生が全体の4割もいる時代から2割にまで減っていますし、町工場や中小企業に人材を送り出せるかというと、なかなか難しい現状もありますね。

 

木暮 生徒の父兄は、どうしても大企業に目が行ってしまう。『寄らば大樹の陰』ってことですよね。そのへんにジレンマを感じています。工業高校としては地元の製造業にもっと貢献していく必要があるのですが。このプロジェクトを通じて、生徒がモノづくりの楽しさに目覚めてくれることで、工業高校の本来の目的である職業人をどんどん輩出していきたいですね。

 

──プロジェクトの成功、大いに期待しております。モノづくり応援団を標榜している小誌としても今後もプロジェクトの推移を追っていきたいと思います。

 

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公益社団法人全国工業高等学校長協会
東京都千代田区飯田橋2-8-1
℡ 03-3261-1500

http://www.zenkoukyo.or.jp/

 

 

町工場・中小企業の応援団 BigLife21 2014年1月号の記事より

町工場・中小企業の応援団 BigLife21 2014年1月号の記事より