オビ 企業物語1 (2)

Webリテラシーは関係ない?

医療ITの先駆者『Welby』が証明したヘルスケアアプリの革新性とは?

◆取材:加藤俊 /文:山田貴文


ウェルビー『Welby』 (ウェルビー)

生活習慣病の代表格「糖尿病」。その医療現場の風景が変わってきている。医療アプリ『Welby』(ウェルビー)の革新性に迫る。

 

スマホで医師と健康管理

721万人。日本の糖尿病患者数だ。一般成人の6人に1人が糖尿病患者と言われている現代社会。食べすぎや運動不足、ストレスなど糖尿病を招きやすい要因に溢れているためか、糖尿病人口は年々増え続けているという(引用:国際糖尿病連合/糖尿病アトラス 第6版 2014 UPDATEより)。

罹患した先の生活は人工透析や視覚障害などの合併症はもとより、食事制限など何かと不自由だ。大学病院に行けば、食事療法を守れない患者と医者との悲喜劇的なやりとりが日常的に見られるだろう。ところがここに来て、そうした医療現場の風景に変化が見えるようになったという。

 

糖尿病患者や糖尿病予備軍、糖尿病患者に向けて糖尿病治療における自己管理と、家族や医療者とのコミュニケーションを支援するためのアプリ『Welby』に注目が集まっている。

Welbyは、患者による“主体的な”治療を家族や医療者とともにサポートするアプリ。患者が自分で血糖値の測定結果、インスリン投与量、ブドウ糖の摂取量の管理をすることができ、入力されたデータは家族や医師、看護師、管理栄養士、薬剤師らと共有できる。誰でも簡単に自己管理ができる、さながら次世代健康手帳といった特徴だ。

 

『Welby』をリリースした経緯

そのWelbyを提供するのは、株式会社ウェルビー。代表取締役の比木武氏は、もともと医師向けコミュニティサイト「MedPeer」を運営開発するメドピア株式会社(2014年マザーズ上場)の立ち上げメンバー。同じく医療分野に特化したサービスを展開しようと2011年にウェルビーを設立した。

なぜ、医療分野なのかというと、「情報の非対称性が高いから」(比木氏、以下同)とのこと。

 

ウェルビー 比木氏 (1)比木武社長・『Welby』の利用者は主に、1型糖尿病(膵臓にあるインスリンを作る細胞が破壊され、インスリン分泌がほとんどなくなってしまうタイプ)の患者。自分自身で健康管理を行うことを目的に、日々のデータを医師や家族と共有できる

「初めの頃のサービスは、専門医と一般医の情報の偏りを正そうと、医師向けに展開していたものの、問題の本質は別の部分だと悟った。情報の非対称性が高いのは、医師と患者の関係性でした。社会的意義とマーケットニーズを加味してサービスを立ち上げました」

 

そのマーケットニーズということで言えば、アメリカでは既に医療ITが大きなマーケットになっている。遡ること2009年頃にはまず医師向けのITサービスが乱立。

そこから2011年頃より顧客向けにシフト。実際に患者が体調などの自己管理をするツールがリリースされるようになり、『Fitbit』(身につけるだけで、日々の健康状態を記録し続ける小さなソーシャル歩数計)などの成功モデルも登場している。

 

 

実験で証明されたデジタルの革新性

ところで、スマートフォンの活用も儘ならない高齢者が、現代のテクノロジーを使いこなすことができるのだろうか。これが「できる」という。むしろ同アプリでは高齢の利用者の方が、問題なく活用できているのだそうだ。

医師が患者に利用方法を説明したり、わかりやすいマニュアルがMRの手によって各病院に置かれていることで、認知も広がってきている。中にはWelbyで医師と健康管理をすることを目的にスマホを購入する高齢者もいるという。

調査段階でも年齢が高いほど、アクティブユーザーが多いことが判明。年齢と比例して症状が重く、まじめな面があるものの、問題視されていたWEBリテラシーは関係ないということか。

 

また、実際の患者・予備群での実証実験も大学病院や関連省庁と連携したプロジェクトで行われている。アプリを活用した患者と、一般的な診察や患者手帳という従来のやり方の患者との半年間の経過を観察すると、驚くべきことに、アプリ利用者の方が良い結果を示したという。

理由としては、医者や家族などとのコミュニケーションの頻度が、一般的な手法よりもデジタルの方が多くなるため。アプリで繋がっているため毎日のコミュニケーションが可能になったことが大きいのだ。

例えば、食事療法を守る患者に医師や家族がLINEやFacebookさながらスタンプやメッセージを寄せられるのだという。患者にしてみれば、医師にほめられることによるモチベーションからか、それとも見られているから守るのか、その理由はどちらもあるだろうが、何れにしろ、結果がアプリの有効性を物語っていることは確か。

 

 

ヘルスケア領域との連動に隠された背景

今後の展開としてWelbyは、2015年度内にまずはタニタ、テルモなどの国内の主要機器メーカーの測定器と繋がるようになり、アプリとの連動性が確立されるという。体重計や万歩計、活動量計、血圧計、血糖測定器など、Wi-Fiが繋がる機器であれば、自動で情報がアプリに集積される。

このシステムは患者の入力の手間を省くこと以外にも意図がある。患者の心理を慮れば、容易に思い至ることだが、必ずしも正規の情報を提供するというものではない。例えば血圧を測っていないのに入力をする人や、低く見積もった数字を入力する人など。

ただ、そういったことが重なると正しい治療を行うことができないため、患者の情報を正しく把握したい医療従事者の多くは、この連動を歓迎している。

 

また、今後は病院の電子カルテとの同期やがん治療など様々なアプリを揃えつつあり、12~13種類が登場する予定。どのサービスを使用しても同じIDを使用できるので、自分のマイページにログインをすれば、全ての情報を把握することができる。

どれも病院で扱われていた手帳の仕様に従っており、紙で貰っていたものが、デジタルに変わっただけなので、今まで通りに患者は使用することが可能である。

 

今回は、医療ITの最前線で活躍している比木氏に、現在の業界トレンドから今後の課題、株式会社ウェルビーが見据える先まで赤裸々に語って頂いた。

 

オビ インタビュー

ウェルビー 比木氏 (2)

『Welby』をリリースする時に、病気を患っている方に向けた理由はあるのか?

 

病気を患って困っている人は、治療から逃げられないので、より便利な環境を作ることで患者さんの助けになりたかった。

また、糖尿病患者にインタビューをした際に、毎日の血糖測定(自分で指に針を刺して血液で血糖測定する必要がある)で、記録ノートが血まみれになるという話を聞き、簡易なツールを作ろうと思ったことも影響しています。ちなみにその患者は、今でも『Welby』のユーザーでいて頂いています。

 

―ヘルスケアアプリの市場規模が拡大していく中、最前線で感じる変化は?

 

PHRサービス(個人が生涯にわたり自分自身に関する医療・健康情報を収集・保存し活用できる仕組み)が認知されるようになりました。アプリの歴史としては、最初の頃のヘルスケアアプリというものはアプリで数値を入力できるだけでした。

しかし、現在では情報の共有化やクラウドへのバックアップなど、通信的な要素が強くなっています。そういったサービスに対応しているアプリは、今もほとんどありません。

 

また昨年、「薬事法」が改正され、新たな「薬機法」になったことで、当社に一番の影響を与えたのは、ソフトウェアが規制の対象になったことでした。その影響から、医療機器製造販売業の免許を習得し、当社のアプリが規制対象になった場合も正式に対応できるように対策をとりました。

Welbyの場合、それと共に実証実験などによる信頼性のあるデータを残すことが、差別化を測る上での要因になっています。

 

今後、成熟していく過程で考えられる業界の課題は?

 

クオリティーコントロールだと思います。様々なアプリがリリースされていますが、医学的に正しいのかは、分かりにくいのが現状です。これらの要素はかなり重要で、医療用のソフトウェアとして承認を受けていることを示すのが一番良い方法だと思います。全てのアプリが難しくても、当社はそういう方針を重視し、安心感を持ってもらうことが大事だと考えています。

やはり医療情報を取り扱うので万が一、事故が発生すると業界自体に悪影響を与えてしまいます。その課題については、厚生労働省や経済産業省が、体制を整えるために勉強会を立ち上げているところです。

 

これからサービスを展開していく上で見据える先は?

 

あくまでも当社の意義は、患者と医師の非対称性を解消することです。専門家としての医師のスキルはもちろん高いので、それを脅かすことが目的ではありません。

結局、患者さんが知識を得ないと、自己管理をすることができないですし、なによりも医師が楽にならないのです。今後も患者さんが増加することは確実なので、自己管理をするシステムを構築しないと医療が回らなくなることが予想されます。

そういう意味で、当社のサービスは社会的要請ですね。患者が自己判断できる社会を目指していくところで、これから更にニーズが高くなっていくと思います。一般の方々には、そういった時代に変化しているのだと、認識してもらいたいですね。

 

―ありがとうございました。

 

オビ ヒューマンドキュメント

比木武(ひき・たける)…1996年に 同志社大学法学部卒業後、住友商事株式会社に入社。米国ハイテクベンチャー企業の日本進出の共同事業を担当し、CATV業界を中心にシリコンバレーの企業の日本マーケット向け事業開発、商品開発、 プロモーションを行う。同社退職し、2005年より米国ヴァージニア大学MBAに入学しMBA取得。2007年より、楽天株式会社にて、事業戦略や組織改革の業務に従事。2008年に同社退社し、医療従事者向けのOnline Community「メドピア」の立ち上げに参画(2014年 マザーズ上場)。2011年よりWelbyを創業し共同代表に就任。

 

株式会社ウェルビー

所在地:東京都千代田区九段北1-2-1

TEL:03-6261-3525

http://welby.jp/

社員数:25人

 

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