オビ 企業物語1 (2)

有限会社ミツミ製作所 ‐ 葛飾の元気な町工場!旋盤加工の技術力に転換力・発信力をプラス

◆取材:綿抜幹夫 /文:渡辺友樹

オビ ヒューマンドキュメント

有限会社ミツミ製作所 (2)

有限会社ミツミ製作所 専務取締役 山田賢一

 

東京都葛飾区で主に自動旋盤による金属切削加工業を営む有限会社ミツミ製作所。昭和初期から旋盤加工ひとすじの「何でもやれる挽物屋」だ。代々培った技術力に転換力・発信力を付加し、同社を活性化させる次期社長・山田賢一専務に聞いた。

 

◎「何でもやれる挽物屋」

■4代にわたる旋盤加工

精工舎(現:セイコーホールディングス株式会社)の社員だった同氏の曽祖父・山田三次氏が、墨田区で時計店を開業したのは1920年のこと。この時計店を営みながら、部品を自分で作ってしまおうと、金属加工を手がける「山田カナ製作所」を創業したのが1930年だ。

時を下ること50年余、1982年に同氏の父・山田三津男氏が山田カナ製作所から独立し「ミツミ製作所」を創業。

屋号が変わっているとはいえ、本家の山田カナ製作所は既に廃業しているため、山田三次氏が起こした旋盤加工・金属加工業を現在に受け継ぐのは同社のみ。次期社長である同氏で4代目ということになる。

 

■4名の職人たち

現在の同社は従業員数6名、うち現場の職人は4名だ。同社を創業した山田三津男社長は、三次氏の孫にあたる。すでに息子の賢一氏に事業経営を任せ、さまざまなチャレンジを温かく見守っている。

得意分野は空調関連部品、口下手な職人肌、真面目そのものといった人物だ。賢一氏の義弟にあたる武田秀明氏は営業職の経験もあり、経営に関して賢一氏の相談役、参謀の役割も果たす。酒井大輔氏は賢一氏の高校での同級生。勤務14年の間に手がけた仕事のデータが頭に叩き込まれており、瞬時に取り出せる頼もしい特技を持っている。

以上3名に賢一氏を加えた4名がそれぞれの熟練の腕前に加え、三次氏の代から積み重ねてきた経験や知識を活かし、オーダーメイドの少量生産から数万個という量産まで「何でもやれる挽物屋(ひきものや)」がミツミ製作所だ。

 

■メインは自動旋盤加工

旋盤加工は、回転させた材料に刃物を当てて削り、円柱や円錐形の回転体を作る加工のこと。材料をモーターで高速回転させ、刃物で削る機械が「旋盤」だ。

同社でも以前は汎用旋盤と呼ばれる機械を使い、職人の技で加工していたが、現在は10台あるコンピュータ数値制御のCNC複合自動旋盤機での加工がメインとなっている。

自動旋盤といっても、人間の技が必要なくなったわけではない。加工そのものは機械が行うが、適切な切削方法の設定は人間の仕事だ。機械のプログラミングから、切削油の選択、また作業環境にも注意を払う必要があるなど、自動旋盤においてもさまざまな知識経験や目配せといった「技」が必要となる。

精度の高い加工というと、1つ2つの少量生産品というイメージがあるが、必ずしもそうではない。旋盤加工に使う刃は、使っているうちに熱を帯びたり削れたりという変化を起こす。そのまま切削を続ければ、加工しはじめとは寸法の異なる製品が出来上がってしまう。中〜大量のロットで生産する場合、たとえば1000個なら1個目から1000個目まで品質を同一に保つという、少量品とは全く別のノウハウが必要となるのだ。

各人にそれぞれの案件を任せる形で仕事を行う同社。工場内では、稼働中の自動旋盤の状況を見たり、加工後の製品を検査したりと、4人それぞれが自分の持ち分を黙々とこなしている。

 

 

◎「適応力」で生き残れ

■大量生産を追いかけない

自動旋盤を扱う加工業者は、自動車関係の部品を手がけることがほとんどだが、同社は自動車関係はさほど多くない。現在のメインは空調、医療、弱電関係だというが、そこには必ずしも数を追いかけない経営戦略がある。

大量生産を追求する限り、そこにはコスト問題がつきまとう。30〜40年前には、都内から地方へと生産拠点が移っていった。やがて国内ではコストを削れなくなり、海外への進出が始まった。同じ海外でも、中国の人件費が上がれば東南アジアへと、コスト削減を優先してしまうときりがない。

自動車やスマートフォンのような数兆円規模という市場の仕事であれば、安定した仕事が供給され、中小企業も助かる部分は大きい。しかし、そうした仕事ほど、コスト叩きがシビアになる。ゆえに地方への展開を余儀なくされたり、設備投資ができなかったりという問題が生じる。

 

■付加価値を追求

同社は、大量生産ではなく、付加価値を追求したモノづくりを重視している。地価も、人件費も、光熱費も高い日本の東京という土地でどう戦うか、東京という地の利は何かを、同氏は常に考えている。

戦後日本の製造業は、アメリカの模倣から始まった。アメリカの技術をうまく応用し、付加価値をプラスして提供することで、大きな成長を遂げた。言うなれば「発明力」ではなく「適応力」が日本の武器であるはず。しかし、生産を外国で行い、コピーのコピーをさせているのが現状だ。これでは、武器を活かせない。東京の地の利は、コストではないはずだ。

 

■経験+適応力=付加価値

もともと花札を作っていた任天堂は、やがてファミリーコンピューターを作った。日本板硝子も、祖業のガラス製造を発展させ、光ファイバーを。京セラは、瀬戸物からセラミックへ。足立区にある株式会社ニッピは、牛皮などの革製品を扱っていたが、革をなめしているうちに動物のコラーゲンに着目、化粧品事業に発展させ成長した。

祖業以来の根幹たる技術での知識経験の積み重ねは、誰にも真似できない唯一無二の財産だ。とはいえ、それだけでは、時代の変遷の中で市場が縮小し、立ちいかなくなってしまうことも多い。そこに「適応力」があれば、その技術をずっと続けてきたからこそ為し得た、新たな発展につながる。

 

 

◎「発信力」で技術をアピール

■町工場の弱点は「発信力」

葛飾区・墨田区・足立区といった東京東部には今なお2、3千の町工場があるというが、こうした町工場や零細企業に足りないものは、同氏に言わせれば「発信力」だ。

孫請け・ひ孫請けとして、大手から降りてくる仕事を淡々とこなしている家族経営の工場はもちろんだが、優れた技術を持つ職人でも、自分たちの技術を俯瞰し、長所を把握し差別化を図りという「営業力」や「発信力」を持っていないことが多い。ビジネスでの不利はもちろんだが、高齢化・若者離れや後継者不足に苦しむ中小企業が多いのも、ここに原因がある。技術を継承し、企業を継続させるためにも、必要なのは技術そのものだけではない。

「発信力」を重視する同氏は、これまでさまざまなPRや営業活動に努めてきた。自社の売り物が加工技術しかなく、切削加工は特にアピールしにくい技術だ。展示会で何かの部品を置いておいたところで、インパクトに欠ける。仮にふと足を止めても、旋盤加工業者と分かれば地味に思われ、興味を持ってブースに留まる者はほとんどいない。そこで、同氏は展示会で目を引くPR品づくりに取り組み始めた。

 

■『葛飾煙舞』

2009年、ある喫煙パイプメーカーとの取引が始まったことをきっかけに、愛煙家でもある同氏は喫煙具の自作を思いつく。試作を繰り返して完成したのが、金属製のパイプ『葛飾煙舞(かつしかえんぶ)』だ。本来、キセルの材料には木や竹を用いるが、葛飾煙舞の吸い口は真鍮、パイプ部分はアルミ製だ。

実は、タバコは煙を冷やすことで味が良くなる。「クールスモーキング」という言葉もあるといい、その意味で究極のタバコは水の中を通して冷却する水タバコなのだ。

アルミは木や竹よりも熱伝導が良いため、葛飾煙舞は従来のキセルよりも味の向上に成功。さらに、手入れも格段に楽になる。高級感のあるおしゃれなデザインも売りだ。展示会でも興味を持たれるほか、PRも兼ねて自身で持ち歩き愛用している同氏は、喫煙所で声を掛けられることもあるという。

同社の堂々たる自社製品『葛飾煙舞』はパイプ店やオンラインショッピングで買うことができるが、しばしば在庫切れを起こすほどの人気商品となっている。

 

■『どんぐりカプセル』

同氏の「発信力」が発揮された例はこれだけではない。2014年秋には、葛飾区産業フェアに来場する子どもたちのために、金属製の『どんぐりカプセル』を製作しプレゼント。携帯電話のストラップのようなどんぐり型のアクセサリーだが、ストラップのひも部分を外し、つまようじを差すことでコマに早変わり。子どもを喜ばせるために考えたグッズだったが、産業フェアでは大人たちにも大好評。以来、来場者の気を引くツールとして展示会でも活躍している。

85年間にわたって積み重ねた経験に、4代目が「転換力」「発信力」を付加した同社。経営状況も上向きだという。製造業が元気になれば、日本が元気になる。アルミのパイプをくゆらす同氏の頭脳と行動力に、モノづくり大国復権への期待がかかる。
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切削加工部品

 

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CNC複合自動旋盤機

 

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山田氏自身も愛用し、切削加工技術のPRを兼ねて持ち歩いているというキセル『葛飾煙舞』

 

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葛飾区産業フェアでは来場した子どもだけでなく、大人たちからも大好評の『どんぐりカプセル』
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プロフィール

山田賢一(やまだ・けんいち)氏…1974年東京都葛飾区出身。高校卒業後、有限会社ミツミ製作所に入社。専務取締役。

有限会社ミツミ製作所

〒124-0012 東京都葛飾区立石2-28-14

TEL 03-3691-7370

http://www.mitsumi-seisakusyo.co.jp/