プリント

埼玉県立新座総合技術高等学校 好きこそ物の上手なれ!生徒を応援する学校

校長 利根川太郎先生/教頭 齋藤清貴先生/進路指導部主事教諭 大場賢一先生/(前号)情報技術科教諭 横田一弘先生

◆取材:加藤俊

プリント

前号(2014年1月号)の記事「工業高校生の人工衛星打ち上げプロジェクト」で取り上げた埼玉県の複合型専門高等学校の新座総合技術高等学校は、実は「産学連携」に熱心な学校でもある。産業界との多岐にわたる教育プログラムなど、時代を先取りした専門高校ならではの教育とは?

向学心の高い生徒たち

03F_Niizasougou04
新座総合技術高等学校に通う生徒は、15歳の時点で、「自分は将来何をしたいのか、どうありたいのか」というキャリア意識をしっかりと見定めた生徒が多い。自分のやりたいことが見えているので、向学心も高い。そのため、陽が沈んで暗くなる時間になっても、同校の校舎の電気はなかなか消えない。課題に取り組む生徒が、夜遅くまで自発的に残るのだと言う。

 

齋藤先生 saitama

「本校はやりたいことがあって来る生徒ばかり。だから、入学後も学習意欲がとても高いのです。デザイン科の生徒は朝早く来てデッサンをやっていたりするし、情報技術科の生徒は皆PCにとても詳しい」。

そう言って同校の齋藤清貴教頭は目を細める。

 

 

全員参加の現場実習

授業風景 新座総合技術高校

実際に、同校の教育は「生徒の夢をいかに応援するか」という方向性で打ち出されたものが多い。他校よりも「社会との接点をもたせる」教育が取り入れられている。例えば、少人数の生徒が3~5日間参加するといった場合が多い現場実習(インターンシップ)も、同校では2年次に〝全生徒〟が参加する。その期間も〝6日間〟と長い。その上、各専門科で学んだ内容を活かせるような就業体験を積むことができるのが特徴だ。

通常、他校ではこれだけの環境を生徒に用意することはできない。インターンシップ受け入れ先企業を、全生徒が参加できる数確保する時点で無理がある。これは、「全国初の複合型の専門高校として産業界と長年連携してきた歴史があるからこそ」(大場先生)可能なことなのだ。

 

 

様々な産学連携の形

授業風景 PC 同校は産学連携にも熱心だ。授業の中に取り入れているプログラムもある。例えば、総合ビジネス科が取り組む、大企業との産学連携教育「クエストエデュケーションプログラム」(株式会社 教育と探求社主催のプロジェクト)。これは、生徒がチーム毎に分かれて、毎年大手企業6社の中から1社を選択し、インターンとして、フィールドワークやアンケート調査を行い、各企業から出される課題に取り組む教育プログラムである。

例えば、大和ハウス工業からの課題は、「人と街の魅力を最大化する〝日本の街〟再生プランを提案せよ!」といった次第。ちなみに、この課題で同校の代表はプレゼン全国大会に出場。「見事、大和ハウス賞を取ることができました」と利根川校長は誇らしげに語る。

 

新座総合技術高校 校長2

「生徒たちが、埼玉県の小川町という所をモデルにして、その町の良いものはなにか、足りないものはなにかを市場調査して、どういうふうにしたら魅力的な町にできるかを考えプレゼンテーションしました」(利根川校長)

 

他にも、埼玉県教育委員会が推進する「実践的職業教育推進プロジェクト」の一環として、2012年にはサークルKサンクスと「まんまるぽてと」というスイーツを共同開発。2013年には、イトーヨーカ堂と「豚肉アスパラチーズカツと椎茸肉詰め揚げ弁当」というお弁当を開発している。どちらも「埼玉県産の食材を使用する」というテーマで、商品企画開発から商品のパッケージに至るまで生徒が考案しているというから驚く。

 

「〈まんまるぽてと〉は、埼玉県産のサツマイモや米粉、牛乳などが使用されています。実際に、和菓子の大福と洋菓子のスイートポテトを融合させた新感覚のスイーツとして、関東のサークルKサンクス各店舗で、期間限定で販売されました。商品を開発するにあたって、総合ビジネス科が、スイーツの意識調査をしました。その結果をもとに食物調理科が〈冷たくてやわらかいスイーツが好まれる〉と考察し、商品開発を行いました。できあがった商品のポスターとパッケージづくりはデザイン科が行いました」(利根川校長)

こうしたプログラムは、参加した生徒に大変良い刺激になる。

実際に「〈漠然としたイメージを具現化する難しさ〉や〈いろいろな意見を一つに集約することの難しさ〉を学べた」という声が挙がっている。ただ、産業界と教育界という異質な風土が触れ合うため、 「最初は摩擦が起こる」など現実的な難しさはあるそうだ。

 

新座総合技術高校 利根川校長

「高校生を育てたいという目線は同じ位置にあるのですが、どうしても意識のずれが起きてしまうのです。例えば、高校生に何かをやらせるのを自社のアドバルーンとして捉えている企業側の意識が仄見えると、高校側としては戸惑ってしまいます。意識を共有していくのは簡単なことではありません。ただ、その過程も教育としては必要なことと捉えていますが」(利根川校長)

それでも、こうした教育プログラムの意義は揺るがない。プロジェクトに参加した生徒たちの、興奮覚めやらぬ感想が全てを物語る。

 

●「製品ができて、凄く感動した。みんなの意見を聞いて創っていくうちに良いものになった。普通科の高校と違って、多学科あることが面白くて良かった」

●「新総(新座総合技術高等学校)はすごい学校になると思った。そのすごい学校になっていくことに関わりたい。6学科が関わってやっていくのは難しいと改めて感じたが、新総に6学科あることの意味を考えて、これからもこういう試みをしてほしい」

 

「時代を先取りした新しい」教育という触書が全く上滑りしていない実習の数々に、「むべなるかな」と独りごちた。

 

 

obi (3)

新座総合技術高校 写真 1

複合型専門高校の先駆者である新座総合の取り組みと、その思いとは…

 

Q・多くの学科から『15歳の選択』をして貴校に入学してくる生徒たち。入学後の迷いなどにはどう対応しているのでしょうか。

 

齋藤教頭 本校は1年次に全学科混在の「ミックスホームルーム」を行っています。他の学科の生徒から、勉強の情報を得られるので、自分の進路についても、柔軟な選択が出来るようになりますね。中学卒業時の学科選択が、人生の全てではありません。ここで様々な学科の情報に触れ、進路をじっくり考えればいいのです。もちろん、大部分の生徒はもともと好きなことを学んでいるので、その専門に見合った進路を選択しています。進路実現の幅が広いので、学校としても指導に難しさはありますが、裏返せば私たち教員
のやりがいになっています。

 

Q・各学科の特長を簡単にご説明ください。

 

大場教諭

大場先生 電子機械科はメカトロニクス。何と言ってもロボットです。教育課程にもロボットが取り入れられている。製造業の企業に最も近い所にある学科と言えるでしょう。

情報技術科はソフトウェア。コンピュータ技術のエキスパートを目指します。ITやゲームの世界を志す生徒が多いですね。

デザイン科は平面、立体のデザイン全般。昔は工業デザインでしたが、今ではグラフィックデザインが中核です。基礎からデザインが学べます。学校のパンフレットのデザインも卒業生がやっているんですよ。

服飾デザイン科はまさにファッションのデザイン。卒業時にはミシンを自在に使いこなせるようになるし、自身がデザインして作った服を着てファッションショーも行います。

食物調理科はその名の通り、あらゆる食の調理を学びます。卒業と同時に調理師免許が取れる公立学校としては貴重な存在です。企業とのコラボで弁当やスイーツの開発も行っています。

 

Q・卒業後の進路について教えてください。

 

大場先生 学科によって生徒の希望は異なりますが、1/3が就職しています。電子機械科や情報技術科は、求人も多いので引く手数多の状態ですね。ここは東京都との県境にあるので、東京の企業からの求人が多く入ってきます。生徒の側も県外といってもお隣の東京なら何の抵抗感もありません。その意味では、地の利に恵まれていると言えるでしょう。逆に、埼玉県立ということで、生徒が埼玉からしか入学できないのがちょっともったいないかもしれませんが。

 

Q・専門高校としての悩みを教えてください。

新座総合技術高校 校長1

利根川校長 「専門高校=就職」という括り方で捉えられてしまうことですね。大学に進学することを考えると専門高校で学んでいることが、アドバンテージと見られず、中途半端な扱いをされてしまう節があります。普通教科の勉強時間が少ないことをハンデとして見られてしまう。そうではない。ハンデではなく、専門科目をやっていることや、自分のやりたいことが見えていることが、将来的にアドバンテージになるという考え方が、まだ浸透していません。専門高校で学ぶメリット、アドバンテージを社会がもう少しうまく評価してくれるとありがたいなと思っています。そして、専門高校は就職も進学も両方の道を考えられる学校ということをもっとアピールしていきたいです。

 

Q・子供の数が減少している以上に、専門高校の統廃合が進んでいる現状があります。それは何故でしょう。

 

齋藤教頭 やっぱり普通科志望の生徒も親御さんも多いためでしょうか。人生の進路決定を中学卒業時にするよりも、とりあえず普通科に行っておいて、3年後に考えましょうということもあると思います。ですが、新座総合に来る子はすでに自分のやりたいことを思い描いて入学してきます。専門高校の需要は生徒からも社会からも絶対にあるんですけどね。廃校にするのは仕方ないですが、こういう学校を新設するのには非常にお金がかかる。やはり施設が特別だからです。むやみに無くしていいものかとは思います。

 

Q・社会がどういうふうに変われば良いですか?

 

利根川校長 生徒たちが自信をもって働ける世の中になってほしいですね。早いうちから、キャリア意識を明確に持って勉強しようと思った子供たちをどういうふうにサポートしていくのかという問題があります。進学にしろ、就職にしろ。就職で言えば、やはりマッチングですよね。早くから意識をもった生徒を評価できる仕組みが何かうまくできないかなと思います。

 

Q・企業は若者とどう接すればよいのでしょうか。

 

利根川校長 私は生徒を見ていて思うのですが、付加価値をつけるのが本当にうまいです。若い人の発想力は純粋にすごい。だから、企業の方には若い人の能力をいかに引き出せるかという観点で、接することが良いと思います。

 

―ありがとうございました。

 

 

【 後 記 】

校舎 窓

専門高校離れが進み、学校の統廃合が進む現在、新座総合に寄せられる期待は、生徒からも企業からも大きい。親子で新座総合、兄弟で新座総合という生徒も少なくないという。保護者から厚い信頼を寄せられている証だろう。

取材後、外に出ると辺りは暗くなっていた。冒頭、同校の校舎の電気はなかなか消えないと書いた。実際に校舎の窓からは蛍光灯の明かりが零れていた。「早いうちから真剣に打ち込めるものを見つけた生徒たちのひたむきさが、きちんと救われる社会にしなければならない」。

利根川校長が吐露したこの言葉を、はたして社会は受けとめられるのだろうか。どうも、偏差値教育に右倣えした人たちは、揃いも揃って前に伸ばしたその手の下ろし方を忘れているように思えてならない。もうそろそろ、誰か一人ぐらい、この切実な言葉に耳を傾けることをしても良いはずだ。いつまでも消えない煌々とした窓の明かりが、きちんと報われる社会を願う。

 

プリント

■埼玉県立新座総合技術高等学校
埼玉県新座市新塚1-3-1
Tel: 048-478-2111
http://www.nsg-h.spec.ed.jp/

 

 

2014年2・3月号の記事より

雑誌版の購入はこちらから

 

記者が選ぶおすすめ記事 

03F_Niizasougou05

工業高校生の人工衛星プロジェクトについての新座総合技術高校の記事。実際に参加してみての生徒たちの感想。

埼玉県立新座総合技術高等学校 『人工衛星打ち上げプロジェクト』を実務面でリードする 日本屈指の複合型専門高校!

 

全国工業高校長協会 人工衛星躯体12号機

工業高校生の人工衛星プロジェクトは、これを読めば分かる!

全国工業高等学校長協会 「人工衛星打ち上げプロジェクト 夢を飛ばせ!工業高校生の手造り人工衛星! 」

 

目次用酒田光陵中山校長 (614x551)

山形県の統合校。高校生という若い時期に、生涯にわたっての強固な基礎になるものを培ってあげたい。

山形県立 酒田光陵高等学校 統合校だからこそ可能になった多角的な教育!

 

DSC_0819 (1280x853)

埼玉県の大学。優れた技術者に求められる3つの技能とは?

日本工業大学 「君がいてくれて良かった!」現場のプロジェクトリーダーになる

 

三栄精機 社長2

大田区における先進的な産学連携に関して。

三栄精機株式会社 × 東京都立六郷工科高校 「年配技術者の意識を変え、若手を伸ばす デュアルシステムが人材育成の在り方を変えてくれた」

 

04_Nagai_kikai01

埼玉県川口市のモノづくり企業。若い人材を育てたい!

永井機械鋳造株式会社 若き女性社長の挑戦 父の遺志を継ぎ、新しい鋳造業の創造へ。世界初! 廃材利用で環境に優しい「ECOMONO」

 

12Kiuchi01 (1)

政治家は現在の工業高校や専門校の教育をどう見ているのか。

自民党・城内実衆議院議員 元外交官だから見えてくる「この先の日本の在り方」 後編:循環型社会、モノづくり立国のために