オビ 企業物語1 (2)

「核心を、突け。」Webマーケティングのプロ集団 ベーシック がスローガンを変えた理由とは?

◆取材:加藤俊 /文:菰田将司

 

株式会社ベーシック 秋山勝氏 株式会社ベーシック秋山勝

「機微を感じるセンスを磨く」株式会社ベーシック社長秋山勝が語る「問題」を捉えるチカラ

信頼する情報筋から、連絡が入ったのは9月の頭だったか。「この会社は面白いよ。伸びるから、ぜひ見てきたほうが良い」。そこで勧められたのがベーシックだった。

あまりに平凡(ベーシック)な名前すぎて、浅学菲才で情報に疎い筆者は、勢いのあるベンチャーなんだろうぐらいにしか理解していなかったが、調べてみれば、よく見るサイト「ferret(フェレット)」の運営会社だった。

 

ferretとは?

ferret▲ferret HP▲

さて、このferret、知っている人も知らない人もいるだろう。一言で説明すると、Webマーケティングの「いろは」が学べるサイトである。

「オウンドメディア」なんて言葉が叫ばれる昨今。多くの企業の経営陣が自前でメディア機能を取得しようと躍起になっている。「ウチもメディアを持とう。ついては、〇〇君。君が担当になってくれ!」。そこで指名され困った〇〇君が、あれこれ調べるうちに辿り着くサイトがferretである。

要は、Webマーケティングに関するお役立ち情報が数多く掲載されており、色々な用語やHow toを調べるたびにferretの該当ページが開かれるといった次第だ。

 

運営するベーシック社とは?

説明が長くなったが、ベーシックの事業は多岐にわたる。ferretの他にも、引っ越し、留学、フランチャイズといった、さまざまなジャンルの比較サイトの運営を行っている。そして、それだけに留まらない。2013年にはシンガポールで現地法人「ジャパンフードカルチャー(JFC)」を設立し、讃岐うどん専門店をオープンさせている。他にも、スマホケースのECサイト「phocase」なども展開。

ちなみに、この9月に新しいスローガンを掲げている。ズバリ「核心を、突け。」。全社一枚岩になって、シンプルに本質を突いていこうとの気概が込められているという。

 

ベーシック スローガン新しいスローガン (HPより)

伸び盛りの会社だから色々多角的に展開しているんだろうという印象だが、このベーシックの根っこのベーシックな部分に何があるのか、それこそ核心を突きたくなって、代表の秋山勝氏に話を聞いてきた。自らを「問題解決の専門家集団」と定義するベーシックの企業物語だ。

 

原点は小学四年生

創業は11年前の2004年3月。未だネットを利用した広告という仕組みが定まっていない黎明期。創業者の秋山勝社長はWebマーケティングに「問題解決」のためのツールとしての大きな可能性を見出していた。その原点を辿ると、少年時代にまで遡れるという。

「あれは小学校四年の頃だったかな。『勉強する意味』を担任に訊いたら、すごく怒られた。そんなのはナンセンスだ、と。それがどうにも解せなくて印象に残っているんです」

 

パチンコ・ギャンブラー時代

幼い頃をそう述懐する秋山社長は、今まで紆余曲折のある人生を歩んできた。「全く勉強しなかった。否、する気になれなかった(笑い)」と語るように、中学時代の成績はほぼオール1。典型的な劣等生だった。社会に目を背け、お決まりのようにギャンブル、特にパチンコにのめり込んでいった。

ただ、秋山社長がロジカルに物事を考えるクセはこのギャンブル時代に芽生えたものらしい。 「勝ちたかったからデータを集めて、ロジカルに考え、法則性を見出そうとした」というから、このとき既に今日の片鱗が垣間見える。

 

パチンコでロジカル・シンキング!

一定の法則性が分かれば今度は他の店でも応用してみる。自分がイイな、勝てるなと感じた時は、何故勝てると感じたかを分析。しかし、その程度なら本気のパチンコ好きなら誰でもやっている。

しかし秋山社長は、勝ち負けのボラティリティをどう解消するかまで考えるようになっていったという。どうして勝てるか、ではなく『どうして負けるのか』を考える習慣。勝つために打つのではなく、「負けないように打つ」こと。そこまでロジカルにモノを見れる突き詰め方が経営者になっての経営観にも現れている。

そんなこんなで結構勝てるようになったそうで、パチンコだけで生計を立てられるようになった。その生活が4年半続いた。しかしある時、パチンコ漬けの生活に別れを告げ、社会人として一歩を踏み出す決意をする。

 

「周りの人から何か言われた?とか聞かれるが、そうではない。ふと自分に我慢できなくなったんです。パチンコで食べていける生活は楽しいだろうと思っていたが、実際にそれを手に入れたら、想像していたように楽しいものではなかった(笑い)。単純に、自己肯定ができなくなったのが、就職した理由です」

 

遅まきの社会人デビュー

それでまず飛び込んだのが「決まっている商品はなく何でも売っていい」という商社。創業17年ながら社員が5人しかいない小さな会社で、社会の厳しさを肌で感じる日々だった。しかしそこでもパチンコで培った考えるクセで、難局を打開する。

 

「商売とはモノを売った、という過去形で考える人がほとんど。商売では、価値の対価として金銭を得ている。では、お金を払うということはどういうことか、ということを考えました。価値さえ提供できれば、人は一億円でも払うだろうし、逆に提供できなければ一円すらも払いたくない。売上が立てば何を売ってもいいというスタンスの会社でしたので、クライアントの考えることを先回りして考えるようにしてみたんです。

この時期ならこんな問題が起こるよな、そうしたらこんなモノを欲しがるのでは、と。そうしたら成績は良くなりました」。

 

起業前夜

次に仕事をしたのはITベンチャーの物流倉庫の立ち上げ。本当に倉庫しかないところに一人で行き、6ヶ月後にはそこを拠点として中古CDの再利用をして流通にながす、というもの。常時百人の人を働かせないと回らない仕事だった。

「そこで人を使うこと、一つの目標に向かって力を合わせるようにしむけるには、どうしなければならないのかを学ばせて頂いた」

 

その後、お世話になった会社役員に招かれて広告代理店のプロジェクトに参加。主要メンバーとして精力的に取り組む中で、ある思いが強くなってくる。

「新しく扱いたい商品を探して様々な企業や人の話を聞くうちに、自分も経営の世界に飛び込みたくなったんです。当時、置かれていた環境は恵まれていました。

やりたいことをやらせてもらっていたし、部下にも上司にも恵まれていました。二人目の子供も生まれるタイミングでした。給料もいい。……でも思ったんです。このままだと自分の人生は保身に走ってしまうなと。恵まれすぎて、何もしない人間になってしまう。それは何か我慢がならなかった。家族も賛成してくれました。だから独立したんです」

 

ベーシック創業後は、培ってきた「問題解決」の力で事業は拡大。そしてこの度新しいスローガンを掲げるに至った。ベーシックのHPに掲げられた「核心を、突け。」の文字。ここに込められた思いとは? 秋山社長にインタビューした。

 

オビ インタビュー

Webマーケティング力で世の中の問題解決をする」

株式会社ベーシック 秋山勝氏 (1)

―9月にスローガンとロゴを変えました。新スローガン「核心を、突け。」に込めた思いとは?

 

もともと、問題解決していくというのが僕らのビジネスをするうえでの軸になっています。それを言葉として究極的に凝縮していった先に行き着いたのが、「核心を、突け。」。問題の核心を突こうよ。それが突けていれば、物事は勝手に動き出すという思いを込めています。

あわせてコーポレート・アイデンティティを変えたのも、よりそこにシャープに向き合いたかったから。今までは、どこか牧歌的な楽しさを重要視していたのですが、今後はよりシャープに核心を突ける組織へと変貌させ、エッジを立たせていきたいなと。

 

―核心をの“、”や突けの“。”は?

 

ここはね、コピーライターさんの仕事なんですが、より効果的に見せるためです(笑い)。ないとスラスラと読めてしまうので。

 

―ベーシックは様々な分野に展開し、現在売上100億円を目指して積極的に活動している。その活動の理念を秋山社長は「問題解決」と話しているが、その「問題」はどのように見つけているのか?

 

大事なことは『心の機微を見逃さない』ことと思っています。日常の中でふとした問題に気づけるかどうか、そしてすぐ行動に移せるかどうか。例えば、エスカレーターに乗った時速度が違ったとして、そういう些細なことに違和感を持ち、そこに「何故」を感じられるか、そういった感覚の鋭敏さが「問題」を見つけることに繋がっていきます。

先日、ファミリーマートのコンビニのコーヒーを手に取り、「高級感がある」と感じたんです。この高級感は何処に基づいているのかと凝視したら、ストローが黒いからと気づいた。たったそれだけだが随分印象が違って見えたんです。こういう感覚が問題を見つけるのだと思います。

今やっているphocase(フォケース)というスマホ・ケースの事業は、2年で5億円規模まで成長しました。この事業のきっかけは電器店に行った時に、iPhone用のケースはたくさんあるのに、Android用は全然ないことに気づいたことから。考えてみれば、iPhoneは二年間は形が変わらないが、Android携帯は製造されている期間が短い。だからケースなどの商品が少なくなる。Androidユーザーもオシャレがしたいのに、買ってからiPhoneのようにオシャレができないことに気づく。ここに商機を感じたんです

 

―そのような視点を持って事業を展開してきた秋山社長だが経営上の苦労とは?

 

組織のリーダーは皆そうだと思いますが、苦労の多くはやはり人事です。問題の本質に気づいていないメンバーの意見を取り入れて、上手くいかなくなったことがありました。しかし、それはメンバー本人の問題ではなくそれを許した経営者側の問題。社員数が多くなってくると、会社の目指すヴィジョンを社員全員に共有し、共感させられるわけではありませんから。

経営者はどうしても、仕事ができる社員のことは目をつぶってしまうところがあります。そうすると組織はグラついてしまう。個人の自己実現の夢が叶うのがいいと思って自由にさせていたこともあったが、組織という視座で考えると、それは間違っていたと思う。目指すものが違えば叱ることも必要だし、袂を分かつことも時には必要です。

 

―では今の考え方は?

 

シンプルで明確なヴィジョンを経営者が社員に示すこと。私も最初から売上100億という数字を掲げていれば、それに向かって邁進するようになり、もっと早く達成できただろうと思います。

経営者の役目としては、未来に期待することがメンバーには必要だという観点から、ヴィジョンを明確にし、社員全員がそこに描いた像に向かえるように導くこと。そして様々な事業部のメンバーがそのヴィジョンと繋がっていくようにしていきたい。また、そういう考えを持って取り組んでいかないと、今が良くてもいずれ上手くいかなくなると思うのです。

 

「今日より明日がより良くなる」

―ポータルサイトは次々と新しいものが産まれている。業界の今後の展望は?

 

元々、興味があったのはターゲッティングで、これが明確であれば成功するという確信がありました。以前はポータルサイトも総花的なものが多かったが、だいぶ環境は変わってきた。問題をピンポイントで解決できれば効率がいいし、多くの人もそれを求めている。そのコンセプトで作ったのが比較サイトでした。

 

―秋山社長の目指す先とは?

 

具体的なミッションとしては、Webマーケティングの大衆化に取り組むこと。これから何をやるにもWebマーケティングの視点は必要。ただそのノウハウを我々だけが理解し、それをコンサルティングという形で提供することには興味がない。そういうものに頼った事業形態を作りたいわけではないのです。

私たちが今まで事業を推進して実地で得た経験をカリキュラム化して提供していく。知識と機能と手間を提供できる状態を作っていきたい。分からないから踏み込んでみる、という挑戦的な事業者の一助になりたいと考えています。

 

―ありがとうございました。

 

オビ インタビュー

秋山勝(あきやま・まさる)…1972年東京都出身。高校卒業後、商社での営業職、ITソリューション受託会社の物流センター立ち上げ、広告代理店での新規事業立ち上げ等を経て、2004年㈱ベーシック設立。主力サービスのWebマーケティングポータル「ferret」は会員数29万人超。2013年2月にはスマートフォン用ケースブランド「phocase」、同年3月にはシンガポールにて本場讃岐うどん店「たも屋」をオープンするなど、Webマーケティング力を強みにユーザー視点かつスピーディなサービス展開を行う。

 

株式会社ベーシック

〒102-0082 東京都千代田区一番町17-6 一番町MSビル1F

TEL :03-3221-0311

http://www.basicinc.jp/

従業員数:85人

年商:20億5,000万円(2014年12月期)