土屋 芳春さん一般社団法人 軽井沢観光協会長 

 

緑豊かな森に囲まれた別荘地、明治時代以降に建てられた教会や洋館、文豪の碑など軽井沢には見どころがたくさんある。この和洋折衷の独自の文化をどうやって育み、発信しているのか。軽井沢観光協会 土屋芳春会長に聞く。

 

軽井沢観光協会の事務所 外観 

 

軽井沢のウェルネスリゾートとは何か?

―軽井沢から感じるのは、日本と西洋の文化が混じり合った独特の雰囲気だ。今の軽井沢の姿を奇跡と呼ぶ人もいる。

 

軽井沢は外の文化を受け入れる土壌が深く根付いた町です。ですから閉鎖的ではなく、オープンな町民性をもっています。やはり中山道の宿場町として往来があったことによるのでしょう。それが明治時代に英国聖公会の宣教師であるアレキサンダー・クロフト・ショーさんが、避暑に使い出して多くの外国人が滞在する街として変貌を遂げていく過程で、様々な西洋文化を取り入れて、自分たちの生活を作っていくことの素地にもなりました。その延長線上に今日の和洋折衷のここにしかない独自の文化が育まれているのです。

 

―軽井沢が掲げる「ウェルネスリゾート」とは何か。

 

この地域は標高1000メートル地帯にあります。標高1000メートルの気圧というのは、胎児がお母さんのおなかの中で感じる気圧と一緒だそうで、ヒトの原初の記憶にも触れるのか精神安定をもたらすと言われています。先人が「屋根のない病院(天然のサナトリウム)」と称した地域で、自然や気候、生物多様性やコミュニティーなどの環境が整い、訪れるだけで健康的になれます。

いま、軽井沢を来訪する方は年間約850万人います。こうした方々に色々なアクティビティに触れていただきながら、軽井沢に長く滞在していただいて、豊かな自然環境のなかで安らげる生活を過ごしていただきたい。こうした活動をウェルネスリゾートと呼んでいます。

 

―確かに軽井沢の駅のホームに降り立つと、何度も大きく深呼吸せずにはいられない。この心地よい冷気と戯れていると、自然と身体がリラックスできていることを感じる。

 

そうなんです。五感が刺激されますよね。実際に、和洋折衷の地域特性効果と、短時間で首都圏と標高差1000メートルを行き来することによる転地効果、それに浅間山から流れてくる気候と都会から流れてくる気候がぶつかり合うことによる、爽やかな気候効果があります。この地域に長く滞在するとそれはもう健康体でいられますよ。

 

―会長自身も軽井沢で生まれ育っているとのことだが。

 

ええ、おかげさまで健康そのものです。私自身は塩沢地区の生まれです。私が子供だった50年前の塩沢は田んぼや畑の広がる営農地帯でした。我が家も農業をしていました。他にもこの地域一帯で乳牛や山羊、鶏などを飼っていまして、親から私は「お前はヤギの乳で育ったようなものだ」と言われていました。乳牛場といえば、天皇陛下にお越しに頂いたことを記憶しています。

 

―軽井沢の地域の特徴として、他には別荘コミュニティもあげられる。

 

そうですね。大きな別荘コミュニティは5つあります。軽井沢会軽井沢文化協会軽井沢南原会軽井沢追分会、そして軽井沢しらかば会です。この別荘コミュニティがあることが他のエリアとの大きな違いなことは間違いありません。軽井沢という町の発展もこうしたコミュニティの方たちに支えられてきています。

例えば、軽井沢町民憲章というものがあるのですが、これも、もともとは別荘の方々が東京では経営者や政治家など一人ひとり立場が違うけれども、ここ軽井沢ではお互い対等に楽しく付き合いましょうよということを合意するために作ったものです。せっかく羽を休めに来ているのだから、心豊かな別荘生活を過ごそうよと。それを町民も一緒になって共有しようということで昭和48年に制定されたのが、軽井沢町民憲章です。

 

<軽井沢町民憲章>

世界に誇る清らかな環境と風俗を守りつづけましょう

すべての来訪者に心あたたかく接しましょう

かおり高い伝統と文化を育てあげましょう

緑ゆたかな高原の自然を愛しまもりましょう

明るい家庭と伸びゆく町を築きあげましょう

 

軽井沢の未来

―軽井沢が抱える課題は?

 

軽井沢が軽井沢らしさを突き詰めていく先に、土地利用のグランドデザインをより考えていく過程で、土地を面的に規制していくゾーニングが必要になります。非日常性を求めるのが、リゾートであり、別荘ライフもそうです。別荘は300坪以下は売らないというルールがありますが、最近はこの小さな町に、本当に850万人を受け入れるキャパシティがあるのかはいよいよもって考えなければならない段階に来ていると言えます。

昔からお越し下さる方によく言われるのが、渋滞の多さです。もしかしたら、これからは、ヨーロッパのリゾート地のように車の渋滞規制をするなど、より一人ひとりの来訪者が心豊かに過ごすことのできる、顧客満足度の高いリゾート地としての創り込みが必要なのかなと思います。危惧しているのは、別荘の方や滞在型の観光客の方に飽きられてしまったら、もはやリゾートではなくなりますので、ここは軽井沢永遠の課題とも言えます。

 

―軽井沢は「国際観光文化都市」として法律に定められている。日光や熱海など全国で12都市しかない。国内としては既に成功している都市と言えるが、未来の軽井沢の姿とは?

 

2016年「G7」、2019年「G20」が開催され、より国際都市としてのイメージ化が進みます。軽井沢が世界に冠たるリゾートになっていくためには、海外のスターホテルなどを呼び込んだり、アカデミックな学術機関の誘致なども必要です。大学のサテライトオフィスの誘致がどれだけ町や地域を魅力的なものに昇華していくか、知的生産が行われるMICE(マイス)としての在り方を考えていきたいです。

私がよく使う言葉として「ダボス、アスペン、軽井沢」があります。これから先の軽井沢は、研究機関、学術機関、そして国際会議が開かれる都市として東洋のダボスを目指していきたいです。事実この地域にはスキーをはじめとするスポーツ、自然体験型のアクティビティ、芸術・美術機関などもご利用いただける。そのためにも来軽者が安全に使用できるインフラ整備や開発規制を厳しくし、景観を保っていくことです。

 

また、これからの動きとして、ウェルネスリゾートをより強く発信していきたい。軽井沢観光協会の会員は500社います。現在ウェルネスに紐づくアイデア(商品など)を募集し、来訪いただく方により満足いただける豊かな環境を提供していきたいです。

同時に、働き方改革が叫ばれる昨今ですから、職場に出勤せず、自宅や社外のワーキングスペースなどで働く「テレワーク」の拠点として、現在軽井沢が注目を集めつつあるのですが、滞在するだけで健康になれ、脳の活性化により創造力が高まる利点があることからより多くの企業やワーカーの方にご活用いただきたいと思います。知的な情報発信都市としてのイメージもさることながら、軽井沢は新しい人間の生活スタイルを作れる場所です。この地域が辿った歴史が物語っていますが、情報発信力がある地域でもあります。

 

本記事の取材にあたり、一般社団法人軽井沢ソーシャルデザイン研究所鈴木幹一理事長に 尽力いただきました。ありがとうございました。

写真左から 鈴木幹一理事長 /土屋芳春会長 /一般社団法人100年経営研究機構 藤村雄志事務局長 /蘇れ日本人の会 藤原美津子会長

 

土屋 芳春さん

1956年軽井沢生まれ 1980年日本大学卒業後、90年軽井沢 絵本の森美術館を創設 軽井沢町教育委員、軽井沢町議会議員などを経て、2011年4月より一般社団法人 軽井沢観光協会長 現在、絵本の森美術館やエルツおもちゃ博物館を含む「ムーゼの森」の代表や軽井沢テレワーク協会 会長を務める。

 

一般社団法人 軽井沢観光協会

所在地:〒389-0102長野県北佐久郡軽井沢町大字軽井沢470-3 軽井沢町観光振興センター内
電話:0267-41-3850

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