日本において、少子化、高齢化、労働人口の減少、その結果どう考えても今後の経済は停滞するだろうという、一つの既成概念的なシナリオがある。その閉塞的な考え方を打破するためには、各人のチャレンジ精神を解き放ち、社内であれ、社外であれ新規事業創造活動を活性化するしかない。そう考えている1人であるハーモニーレーベル代表の羽幡 咲嬉氏は、今回果敢に行動を起こした。新規事業創造者として稀有の存在であるが、自ら本は出さないという超多忙な守屋実氏を説き伏せ、ザ・イントレプレナーシップの出版にこぎつけたのだ。羽幡氏はこれを機に、起業家精神を日本に宣揚していきたいと考えている。

 

「ザ・イントレプレナープレナーシップ」とアントレプレナープレナーシップ

この書籍(写真)自体は、守屋実氏のイントレプレナーシップに焦点を当て、上梓されたものあるが、本稿では、社内起業ではなく、独立起業、アントレプレナーシップの起業の取り組みについて共有を行っていきたい。驚異的なペースで新規事業を興していく、稀有のシリアルアントレプレナー守屋実氏と、共に起業に関わる経営者たちの実態に迫っていく。

 

共通点は本書を参考としつつも、今回は、そのB面活動とも言えるアントレプレナー、独立起業のポイントについて、ハーモニーレーベルが主宰し、開催されたイベントを掘り下げる形でそのエッセンスを紹介させていただく。

 

羽幡氏は、出版×イベント×ネットワーキングを複合化する形で、起業家精神を広めていくことを企図しているのだ。

 

ここからは、都内某所で行われたイベントを材料にアントレプレナー・シップについて掘り下げていく。

 

シリアルアントレプレナー守屋実誕生の背景

 

「わが国には、経理のプロや、法務のプロはいる。弁護士が弁護するのがうまいのは、弁護ばっかりしているからだ。しかし、新規事業は、上手くいったらその会社の社長になってしまい、二回くらい失敗したら、二度とアサインされなくなる。だから、世の中は常に新規事業の素人ばかり・・・だからあんたはずっと、新規事業だけをやるんだ」(前出著書より)あるとき、守屋氏は、会社の大ボス、ミスミ社長(当時) の田口氏よりにこう告げられた。

ここから日本初とも言える、「新規事業専任者」の看板を背負った守屋氏の悪戦苦闘が始まった。学生時代から先輩の起業に関わり、ビジコン優勝の経験はあっても、現実のビジネスは全く違う。失敗も回数を重ねていくと、当然に周囲の目も冷たくなってくる。しかし、田口氏の言う通り、やりつづけて、数多くの失敗を克服していかないと、知見が蓄積していかない。守屋氏はこれを「量稽古」と呼ぶ。

守屋氏が今日まで、新規事業をやり続けたことによって出している結果は、驚異的なものだ。49歳にして49の起業を実施、イントレプレナーが17社、起業が18社、週末起業14社という数値を残している。そして結果は、上場や、M&Aの形で日の目を見はじめた。2018年 になって、ブティックス、ラクスルが二か月連続上場 し、ようやく開花のラッシュを迎えつつある。

 

新規起業は失敗するのがあたりまえと思って取り組め

その守屋氏の第一声は「そもそも、新規事業なんて、うまくいくはずないんです」

新規事業とは、誰もやったことがない事業だから新規事業なのだ。結果、新規事業はほとんどが失敗する。成功して脚光を浴びているのは屍累々の案件の中で、ほんの一握りでしかない。

 

「未知のマーケットに、経験値ほぼゼロではじめる。新規事業なのだから、当然に、できるだけ緻密に事業計画は策定します。事業計画をPowerPointで作る、KPIをExcelで作るのですがほとんどその通りにならないんですね。実際に顧客はいなかったという話になる。それを相手がいる生身のマーケットとの間で、ビジネスプランの数値を修正していく中で、どうやって『これならイケる』という数字に変えていけるか。その中でものになるのは100に一つと言うイメージなのです」

 

経験がないので、少しでも見える領域を足掛かりに事業は進めていく。ミスミの強みの一つと言えば、カタログ販売。ある時守屋氏は、病院向けの医療消耗品のカタログ販売を考えて、トライした。

「最初は、医院の事務員向けにアプローチしたが、決定権がないので失敗。ならばということで、院長先生を狙ってやってみたがそれも失敗。なぜなら院長は忙しくてそれどころではなかったのです。しかし、あるとき、動物病院から発注がありました。人間用の器具をなぜ動物病院が?と怪訝に思い、実際に現場にいって、ヒアリングした。『守屋さんね、動物用の医療器具ってあると思いますか?あるわけないじゃないですか。なので、人間のものを使うんですよ』と。なるほど、これは行けると、ここで動物病院向けにカタログ販売のターゲットを絞ればよいと光が見えてくる。しかし、だ、勇んで本社に帰り、提案をすると、今までさんざん失敗しておいて、またお金を溝に捨てるつもりなんですかと反対されました」

しかし、そこを押し返し、結果として経常利益1億になる動物病院向け事業が立ち上った。

 

次は、ラクスルのケースだ。

ラスクルを始めたときは、資本金が当初200万円しかなかったという.

いきなりECを立ち上げるには厳しい企業体力であった。そこで、印刷会社がプロでないとわからない表記をしている印刷会社自身の営業サイトではなく、印刷したい一般人が最適価格で注文できるように「印刷比較ドットコム」「」というポータルサイトを開設し、情報収集することから始めた。例えば、チラシを作りたいときには、サイトを検索すると、紙サイズや、カラーかモノクロか、印刷枚数などを聞いてきて、最適な印刷会社が選べる。そうすると、これは便利だということで20万人の印刷希望者と、2,000社の印刷会社が集まった。。ここまでで4年。さらに、それから印刷するときに、業者特有の用語が伝わりにくいのでいかに改めるか。あるいは、発注ボタンの色をどうすればよいか。上手い面付による紙面の有効なレイアウトを印刷コストとの適性関係でどう実現するか。つまり、配送サービスを込みにして、ユーザーの発注量を大幅に増やすことができないかといったことなどをテストしていった。このチューニングテストを繰り返し、4年後に満を持してECサイトの資金調達を行なったのである。

 

この計画だから上手くいくはずではなく、トライアルしたら、すでにこんな結果がでましたというのが最も説得力があるのです」。果たして、資金調達は成功し、ラスクルは本格的にECに参入、驚異的に伸びていった。

 

このように、新規事業開発はトライ・アンド・エラーを繰り返しながら、勝ちパターンを掘り起こしていくのだ。「データはもちろん重要だがデスクワークで数値をこねくり回しているだけでは、とてもこんな結果は得られません」。

 

日本一と言えるものを持つこと

事業が成功するには大きな市場があり、それが伸びている必要がある。大きなマーケットに対して、日本一と言える強みを持っていること、これが事業の肝になると守屋氏はいう。

「医療、社会福祉とかは誰が見ても大きなマーケットに見えます。しかし、参入も多い、そうするとその中で強みをもって的を打ち抜く必要がある。たとえば、訪問歯科事業に参入したときのケースだと、そういった業態はほぼありませんでした。なぜかというと、通常の診療をしながら、訪問用のポータブルな機器を買って、なおかつ新規営業するというのは相当無理な話。これを実際にやっている先生が川越にいらっしゃった。こういったものが日本一の強みということになります。医療、ヘルスケアについて、もう一つ例を挙げれば、教師データなどオリジナルなデータをどれだけ集めているか、あるいは集められる立場にあるかということです。」

 

的を打ち抜くことができるほどの、日本一と言える強みがあるものをどのように、確保するのか。もし日本一でなく、2番目、3番目であったら価格競争に巻き込まれ、ベンチャーは死んでしまうと守屋氏は指摘する。

 

事業内容よりも、組織と人。誰とやるのかが最も重要

守屋氏に言わせれば、事業が成功するかどうかは、事業そのものよりも組織や人の問題のほうが大きいという。組織機能的に言うと、起業をするにあたっては、起業のプロと、業界のプロが必要になる。

 

「この時に、業界のプロが優位になるようなルールにしていると失敗します。なぜなら、業界のプロは、その業界での既成概念があってそれを打破できないから、今の姿があるわけです。そこを、ブレイクスルーするのが、起業のプロです。先ほどの訪問歯科の例でいうと、

業界のプロである医師がやるとせいぜい数店舗しか出せない。起業のプロがやると、専門の営業組織をつくり、全国展開するといった展開が可能になります」。

 

起業の成功ポイントはビジネスモデルももちろん重要だが、それ以前に、意思決定ルールだ。業界のプロより起業のプロの声が最終的に優先されるように設計が必要。2、3回失敗しても業界のプロの声でなく、起業のプロの声を選択することが重要であると守屋氏は指摘する。

 

さらにもっと大切なのが「誰と組むか」だ。仮説がことごとくはずれ、新規事業がなかなか上手くいかないとすると、チームメンバーは自信を失い、疑心暗鬼になり、責任問題が発生してきて人間関係はぎくしゃくする。そのときでも、いっしょにやれる人かどうかそれを考えて組む相手を選ぶ必要がある。実際には、起業当初は役割分担も明確なものがない中で、お互いに線を引かずに、数えきれない課題に対処していくことになる。どんな困難に直面しても乗り切れる事業パートナーを選ぶことが最も重要なのだ。

 

 

守屋流アントレプレナーシップと起業家に関するセッション

それでは、実際には守屋氏と起業家の絡みはどのように行われているのか?起業家の方々に話を伺った。

株式会社ミーミル 代表川口荘史氏

 

 

もともと研究者を志していた川口氏は、バイオ研究に従事していたが、博士課程修了後に投資銀行(UBS)に新卒入社。今度はビジネスサイドに立場を振って、投資銀行で国内外のM&Aやファイナンスに関わった。その後、ベンチャー企業のファイナンスなどの支援に関わったり、スタートアップにて自ら新規事業を模索していく中で守屋氏との出会いがあった。

 

「ミーミルが取り組むエキスパートネットワークは、各領域のエキスパートのスキルやナレッジを可視化し、それを必要とするプロジェクトに結び付けていきます。エキスパートネットワークは、コンサルファームやファンド、事業会社の経営企画部などが、専門的な知見を獲得して意思決定をしていくときに活用します。専門的な知見を必要とするときに、誰が知見を持っているかを見極め、適切なエキスパートと接点を持つことはこれまで困難でしたが、エキスパートをプールし、そのスキルやナレッジを可視化していくことで、価値ある知見を持つエキスパートの活躍のチャンスもぐっと増えてきます」

 

ミーミルには創業から守屋氏も参画し、ユーザベース社の出資を受けて事業展開を加速化している。ユーザベースのビジョンは、経済情報によって世界を変えること。ソーシャル経済メディアNewsPicksや、SPEEDAといった同社のサービスともエキスパートネットワークは連携していける余地が大きいという。

 

川口氏、守屋氏とは、数年前から毎週2時間以上ディスカッションして いるという。

「当初は、アジェンダを決めて資料をベースに顕在化している課題などについてディスカッションしていました。それが、徐々にアジェンダを決めることなく、自由に幅広く事例や考え方などを話し合う形に変化していきました。コミュニケーションをしながら相互理解が深まって、前提とする考え方が一致してコミュケーションの齟齬が起きない状況になったからこそ、潜在的な課題、課題認識できてないものを早めに気づかせてもらうためのディスカッションができる関係になったと感じています」

 

「こういう、アジェンダもなく話し込む関係が気持ち悪いと思わず自然とやれる、そういう人と組むことが重要」と守屋氏も応ずる。

 

AuB株式会社 鈴木啓太氏

 

元サッカー日本代表の鈴木啓太氏は、現役時代から腸内細菌に興味をもつ。アテネ五輪で、代表選手のほとんどが下痢になるという事件に遭遇、出場機会を逃した経験を経て、コンディションを保つ必要性を痛感。そこで、引退後に腸内細菌のデータをもとに事業化していくAuBを起業。

 

具体的な活動は、腸内細菌を集めるため、アスリートからウンチを収集すること。「まず、後輩たちにお願いしていたら鈴木さんは頭がおかしくなったのではないかと言われてしまいました(笑)現役のときから、コンディショニングやヘルスケアに興味がありましたが、あるとき、ウンチの記録アプリ、ウンログの田口さんという方に会うチャンスがありました。その田口さんの紹介で守屋さんに出会いました。事業の話を長々としていくうちに、思わず協力してくださいと、お願いしてしまいました。そしたら、あっさりといいよと言われました」。

 

守屋氏に言わせれば、分野は、シェアリングエコノミーか、医療福祉、ヘルスケアなどやりたい起業はもうすでにいくつも頭の中にあり、最適の人が見つかれば即決で決めるのだという。

起業についての質疑応答から、新規事業マネジメントの本質に迫る

次に、自ら大企業の新規事業開発支援、複数ベンチャー企業の役員を務めながら起業家教育を行なっている、畠山氏がSli.doによって会場から集まった質問を代表し、守屋、川口、鈴木氏に質問していった。

 

畠山:腸内細菌についてですが、経営者は健康意識が高く、自己管理能力が高いためターゲットにするといかがでしょうか?

鈴木:経営者には経営者なりの腸内細菌バランスがあるのではないか?といったアイデアもあります。経営はビジネストップアスリートとも言えるので良いと思います。ありがとうございます。

 

 

畠山:新規事業は失敗確率が高いということですが、事業の撤退基準はありますか?

守屋:最初から決めています。事業をやる立場からすれば、思い入れもあってなかなか撤退できないもの。これこれといういくつかの仮説があらかた外れた場合には撤退です。機械ではなく、想いをもった人間がやっているので決めておく必要があります。ただ、事業ごとに違うので、マニュアルのようなものはありません。

 

 

畠山:やりきれるメンバーはどのように決めるのでしょうか?

守屋:やり切れるかやり切れないかの判断のポイントは、事業の調子がいいときは、好きでも嫌いでもどっちでもいいが、問題は谷に落ちたとき。そこを想定して、それでもいっしょにいれるかどうかが決め手になりますね。

 

 

畠山:日本一というのはどれくらいの精度ですか?

守屋: 研究論文ではないので、厳密な数値はありません。「いけるんじゃじゃないか」という感覚。日本一と言うのも、厳密な意味はないです。普通に勉強して働いていたらなんとなく判断できるようなもの。本当に日本一かどうかは問題ではなく、これなら絶対にやり切れると思えるもの。AuBのようにトップアスリートのウンチの供試データを500人くらいから集めるなんていうことは自身が日本代表だった鈴木さん以外には無理です。といったレベル感です。

 

 

畠山:会社の中で社内起業したほうが良い場合、外で起業した場合の判断はどのように行えばよいでしょうか?

川口:社内起業については、会社として新規事業を推進できる体制にあるのかは重要だとは思います。本業からの影響を受けたり、意思決定や予算が分離できていなかったり、新規事業の位置づけが決まっていないのであれば、社内起業は難しい。もともと失敗する可能性が高いのに、組織的な問題で事業がうまくいかなくなるリスクが高いのではと思います。そうした場合はリソースがなくても外での起業のほうがうまくいくのかもしれません。

 

畠山:終身雇用が終わり、これからの起業を含めたキャリアの在り方についてどう思われますか?

守屋:これからは企業の寿命より、人の寿命のほうが長いという状況が起こりえます。定年までの40年、その間、会社が存続し続けるか分からない時代になってしまったのです。そういった状況を想定してキャリアを考えたほうが良いです。

 

 

羽幡氏は、率先して守屋流アントレプレナーシップの広報宣伝部長を自任し、メディア、イベント、ネットワーキングを駆使し、起業環境をもっと活性化したいと考えている。

現在、守屋氏は、大企業の新規事業開発への協力の引き合い が引きも切らない状況だという。起業家精神という観点からは、イントレプレナーも、アントレプレナーも基本的に重要な要素は似通っている。さらに詳しく研究したい方はぜひ、『ザ・イントレプレナーシップ 』をご一読いただきたい。