オビ 企業物語1 (2)

株式会社LEMO『ギフトキッチン』 ‐ カタログギフトを大きく変える 若者たちの仰天発想!

◆取材・文:加藤俊

 

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贈り物で溢れる世界に!

まさに〝コロンブスの卵〟だ。株式会社LEMO(東京・渋谷区)が運営するカタログギフトサイトギフトキッチン」のことである。便利な反面、何かおかしいぞと誰もが頭に引っ掛かっていた〝あること〟に着目し、カタログそのものの概念を見事ひっくり返してみせたのだ。

これによって今後、贈り物の在り方は変わるかもしれない。何がどう変わるのか、同社の小川学碓井俊丞両氏に話を聞いてきた。

 

カタログギフトの欠点とは?

贈り物に纏わる〝6〟と〝2分の1〟という二つの数字をご存知だろうか。まず6とは、日本人が一年間に贈り物をする平均の回数である(『OCNブリエ』=現在は終了=調べ)。

この6という数字が多いか少ないか、社交性に欠ける筆者は若干多いようにも感じたが、考えてみれば日本は冠婚葬祭をはじめ、お歳暮、お中元、誕生日、記念日と、とかく贈り物をする機会が多い国。つまりこの国で生活するということは、誰に何を贈るかで常に頭を悩ませ続けることが宿命づけられているともいえる。

もう一つの数〝2分の1〟。これが何かピンとくる人はいるだろうか。実は、人がもらった贈り物を気に入るかどうかの割合を表した数。要は、贈り物の2つに1つは、もらった人にとって心の裡では喜べない、いらないものということ。

思い起こせば、かつて筆者が好きな相手に心を込めて贈った物も、多くが押し入れの隅で埃を被り、捨てられ、酷いのは質屋に流されたりと無惨な展開を辿ってきた。逆にもらう側の立場では、子供の頃、戦隊物のゴレンジャーの〝赤レンジャー〟のフィギュアが欲しいと親に言ったら、全くいらないピンクレンジャーを買ってこられたことがある。あの時の〝がっかり感〟を思うと、2分の1というこの割合も自分の中でさえ事実に即していると頷ける。

 

さて、カタログギフトのサービスが登場したのは1987年。そこから瞬く間に社会に浸透していった裏側には、前述した二つの数字が物語る日本のお国柄と、贈り物を取り巻く現実とが遠因としてあったことは間違いない。

しかし、このカタログギフト、贈る側は商品を選ぶ手間が省けて、もらう側もいらない贈り物を受け取らなくて済むという一見良いこと尽くめなのだが、一方でこの手軽さと無難さゆえに敬遠する人が多いことも事実である。LEMO社の小川社長もそんな一人だった。「既存のカタログギフトには温もりが足りない」 そう指摘する。

 

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「既存のカタログギフトは掲載されている商品が予め決められているので、〝相手のためを想って贈り物を選ぶ〟という過程が抜けがちです。裏を返せば、贈る側で本来選ぶべきところを放棄しているともいえる。そして、それは見る人によっては、手を抜いているとも捉えられかねません。

実際、結婚式などで良く聞く話として、引き出物を選ぶ際に渡す相手全員に喜んでもらえるものを探していくと、結局消去法で無難なカタログギフトになるということがよくあります。そして、どこかで手を抜いているという後ろめたさを拭いきれないと人もいるのではないでしょうか」(小川社長)

 

業者が選んだ商品カタログの中から贈り物を選ぶ。ここに不自然さを感じた小川社長はカタログを自分で作れたらいいのにと思ったそうだ。

冒頭のコロンブスをなぞれば、この発想こそが小川社長の西回り航路である。目的地はインド。船出は近かった……。

 

 

世の中を贈り物で満たす それが僕達のミッション!

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小川社長は閃いたアイデアを当時勤めていたヤフー株式会社で同僚だった碓井俊丞氏(現LEMO社・最高開発責任者)など、気心知れた仲間達に話してみた。すると感触は上々。全員が「面白い!」と言い、自分の発想に確かな手応えを感じた。

しかし具体的に形にしようとすると、すぐに現実の壁が立ちはだかった。とにかく仕事が忙しすぎたのだ。当時小川社長と碓井氏はヤフーの第一線で働いていた。いかんせんサービス構築に充てる時間などある筈もなかった。

ただ、いつまで経っても進捗しない計画に、遂には決心を固める。実は、小川社長は大学時代にも同じようn経験をしていた。当時、面白いSNSサービスの着想を閃いたのだが、いざメンバー集めなどに手間取っているうちに、他の人が自分が考えていたのと同じサービスを作ってしまったのだという。

「あの時の悔しさたるや無かったです。二度と同じ失敗はしたくなかった。だから最終的にヤフーを辞めることも踏み切れました」

盟友・碓井氏と共にヤフーに退職を願い出て、自分たちの夢に賭けることに迷いはなかった。

 

 

そして誕生したのが、ギフトキッチンである。最大の特徴は、カタログギフトの商品を〝自分で〟選ぶことができるという点。

贈り物をする側は、ギフトキッチンのサイトから商品を選び、最終的にオリジナルのカタログギフトを作成する。この形であれば、既存のカタログギフトでは損なわれていた、相手への想いを毀損してることにはならない。小川社長の言葉を借りれば、従来のカタログギフトより、 「ギフトキッチンの方が、贈り物として自然な形」になっている。

 

筆者が実際にサービスを利用してみると、贈る相手にどの贈り物が喜んでもらえるか想像しながらカタログを作る過程が、実に楽しかった。そして商品を選び終えたら、今度は商品ごとに相手へのメッセージを書き込んでいく。

例えばここで、わざと笑いを取るような商品を選んでおくと、贈る人の個性豊かなカタログギフトもできるという寸法だ。二人が言うように、〝贈り物をしている〟という温かい実感を得られた。

 

しかしサービスを利用していると、同時にいくつかの課題も見えてきた。まず何よりも選べる商品数がまだまだ少ない。ここの充実は至急の課題だと思う。商品そのものにもイマイチ個性が足りない。オリジナルのカタログを作るなら、東急ハンズやヴィレッジヴァンガードのような見てるだけで楽しくなれる商品で、ページを埋めたいと考える人は多いはずだ。

さらに、今現在はパソコンからでしかカタログの作成ができないが、ギフトキッチンの利用者の多くは若年層であることを考えると、スマートフォンからでも利用ができるようにした方が良いのではないだろうか。

それから、カタログギフトを本気で変えていくならば、ネットをやらない層にも利用してもらえる紙の展開も模索すべきだろう。そして最も重要かもしれない、ギフトキッチンでどう収益を上げていくのかという課題……。

 

こうした状態であるだけに、前途は多難だ。それでも二人の言葉に宿る熱意は本物だ。

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「喜ばれない贈り物の存在なんて悲しいだけ。すべての贈り物が、もらった人達全員に喜ばれるようにしたいんです。贈った方ももらった方も、双方がハッピーになれるサービスにして、贈り物でいっぱいの世の中にしていく。

 

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ギフトキッチンのミッションは、普段あまり贈り物をし合わない人と人との間に入って、躊躇している一方の背中をポンッと押してあげる装置になることなんです。自分たちが贈り物をするきっかけづくりを担っていくんだと、そう信じて日々運営しています

 

ギフトキッチンが世の中に広まれば、一人一人の笑顔の数は今より多くなる。二人は本気でそう思っているし、話を聞いている筆者も二人の熱にあてられたのか、その未来を遠望できた。それは笑顔の溢れる素晴らしい世界だ。本当に実現させたい。心からそう思った。

 

かつてコロンブスが発見した大陸は、〝コロンビア〟とはならなかった。つけられた名前は、第一発見者を名乗り出てコロンブスの功績を横取りした、狡知に長けた探検家、アメリゴ・ヴェスプッチの名前をとって〝アメリカ〟となる。ギフトキッチンも、自らが発見した大陸に確と自分達の名前を残せるか、この一年が試金石になるだろう。

頑張れ、若者達。笑うことさえ忘れた現代人の顔に、笑い皺がくっきり残るぐらいハッピーな笑顔をもたらせるかどうかは君達の双肩にかかっている!

 

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小川 学(おがわ・まなぶ)氏…1985年6月13日生まれ。神奈川県出身。早稲田大学大学院 メディアデザイン研究室卒業。その後ヤフー株式会社にデザイナーとして入社して、数々のサービスに携わる。2012年に株式会社LEMOを起業してCEO兼Designerとして現在に至る。運営しているサービス〝ギフトキッチン〟の発想のユニークさで、今世間の注目を一身に浴びる新進気鋭の若手経営者である。

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碓井俊丞(うすい・しゅんすけ)氏…1988年6月30日生まれ。神奈川県出身。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業。ヤフー株式会社に入社後、フロントエンド系の開発業務に従事。スマートフォンアプリケーションから大規模Web開発までこなす技術者。2012年より株式会社LEMOの起業に伴い、CDO(最高開発責任者)として現在に至る。

株式会社LEMO

〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2-7-6 306

☎03(6667)4330

http://lemo.is/

 

※この記事は2013年3月号に掲載した記事を再構築したものです
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